~END POINT~ 後編 | マシュレポ(@ω@)y-゚゚゚

マシュレポ(@ω@)y-゚゚゚

このブログは
ゲームや漫画の紹介又は語ったり、時には実験したりラクガキしたりと…

様は何でもあり
それでもよければ是非
覗いてやって下さいませ

一瞬何が起きたのか、頭の整理が出来なかった

プロテインと名乗るバンカー達集団に
取り押さえられ、危機に陥っていた筈の自分は
何事もなく

目の前には、自分を押さえつけていた
バンカーと、その取り巻き達が白目を剥いて
地に伏していたのだ

倒れた彼等の中心には一人の女性が立っていた
顔にはローブで覆われ素顔を目元までしか窺い知れないが、細身のラインと細い口元から性別は女性であると見て明らかだった

バンカー?

女の正体は解らないが敵意の様な物は感じられない、ただ一目みて何処か寂しそうな雰囲気が気になっていた

「大丈夫?」

「えっ? う、うん」

女性に声をかけられ、驚きつつも頷いた

「そう、ここは貴方みたいな子供が来るような所じゃないわ」

なっ 助けてくれた事には間違いなかったが
今の言葉にドロップは、ムッと来るものがあった
子供扱いをされるのが何よりも嫌いだったからだ

それに連なり一瞬助けて貰ったお礼を言う気が削がれたが、気になる事があった

「貴方は…バンカーなの?」

「ん?おかしな事を聞くのね
こういう場所に来るのは、バンカー以外は
あり得ないみたいに」

意外な返答にドロップは違和感を感じていた
バンカーじゃない…?

「貴方が興味あるのはコッチの方じゃないの?」

女性が手にぶら下げてるメダルをみて
ハッと我に帰る

「ソレ」

ドロップが求めてる物を見透かすかの様に
女性は金貨を摘まんでいる

思わず手を伸ばした矢先、女性は金貨を持つ手を
天空に掲げた

「どっちがお望みかな?
私が何者なのか この一枚のメダルか」

「そんなの!決まってるじゃない!
私はずっとその金貨を探していたの」

「じゃあ、貴方もバンカーなんでしょ?
コレが欲しいのなら実力で手に入れないとね」

「っ!言われなくても…!」

倒れてるプロテイン達の荷物を探る
幸いにも起き上がる事はなかったが集団にも関わらず一枚の金貨も持ってなかった

まさか…ハッと気づくと女性は背を向けている

「ちょっ!待って!」

「貴方は十分持ってるでしょ?
なら、ここを降りて残り一枚の金貨を探せばいいんじゃない?…まぁ今その子を見ればさっきみたいな連中が沸いてくるかもね」

「ただ…もし貴方がコレを欲しいのならば
私から奪ってみなさい」

そういうと女性はまるで煽るかの様に
手のひらの金貨をぶら下げながら森の奥へと走り始めた

そうだ!わたしには金貨が必要なんだ
あの一枚さえ、あれば!

ドロップには迷いがなかった
キャンディを背に乗せて走るが女性はまるで
弄んで楽しむかの様にドロップを誘っている

その証拠に、姿が見えなくなる程の距離を離そうとしていない、ドロップが近付いてくるのを向こうで待ってる等、明らかに距離感を保っていた。

彼女もバンカーなのだろうか?
名も知れない女性は余裕であると主張する様に
表情は涼しげのままだ

女性を追えば程、ドロップの心に焦りが
徐々に募っていた、何より金貨で重さを増した
キャンディで息を切らせる等、高いハンデがあった。

せめてあの家に置いてくるべきだった…一瞬でも
そう思ったが、何分あの家にはいつ起きるか解らないケダモノ達が放置されたままだ

だから置いてくる訳にはいかなかった
気づけば、足場の狭い崖っぷちまで来ていた
いつの間にここまで来ていたのだろうか?

この光景にドロップは見覚えがあった
故郷の道場での稽古していた際に飛び移っていたあの狭い足場を彷彿とさせたからだ

あの時は、よく落ちて足を挫いてた
一瞬懐かしさを覚えたが、あの時と違い
落ちれば、怪我所では済まない程の高さだった…でもと躊躇いはなかった

悲願の願いを叶えるチャンスを見ず知らずの女に渡してたまるものか そう憤慨するドロップの心中を察した様に、キャンディは心配そうに吠えていた

「あぁ…もう!今は邪魔しないでキャンディ」

「ガウ…」悲しそうに声を低くするキャンディだがドロップの頭は一枚の金貨で一杯だった次の崖に飛び移ればあの女に追いつく!

そう確信した時だった、次の足場に足が爪先程しか付かなかったせいでドロップはバランスを崩した、間一髪で崖を掴み九死に一生を得たが

背中から何かが抜けた、まるで付いてた重りが
身体から一気に抜け落ちていくかの様な…

「えっ?!」

後ろを見た キャンディだった
一杯の金貨を体内に納め重みを増していたたからだ…手を伸ばす…でも届かない

うそ…いや…

キャンディは悲鳴をあげる間もなく落ちていく

「キャンディィッ!!」

悲痛な悲鳴を上げるドロップだが次の光景が
信じられなかった 布の様な何かが彼女の手を横切ってキャンディの方に延びると布はキャンディを掴んだ、 一体何が?

あの時、プロテインと名乗った巨漢達に
襲われた際も、何かが横切って彼等を倒したのと
同じ光景

布が延びた方角に視線をやると、あの女性が
立っていた、被っているローブの布を伸ばして
間一髪でキャンディを助けたのだ

今のキャンディの重さ等、感じないかの様に
延びたローブは掃除機のコードの様に女性の方へと縮んでいく

ドロップは直ぐ様、崖を上り女性の前に立つ
女性はキャンディを抱き上げて立っていた

そして黙ったままドロップの方に、キャンディを
差し出す。

ドロップは戸惑っていた、さっきまでからかわれてる様に彼女を弄んでいた女性が助けてくれたのだ。「あっ…ありが…」礼を言おうとした瞬間、
ドロップの頬に衝撃が走った 女性がドロップをひっぱたいたのだ。

一瞬の出来事に、怒るキャンディだったが
女性の表情を見てしゅんと、おとなしくなった

先ほどまでに涼しげな顔をしていた女性が
鋭い剣幕でコチラを睨み言った

「貴方にとって大事なのはこの子?それとも中の金貨なの?」

「ッ…そんなのキャンディに決まってるじゃない!ずっと一緒だった…私にとっては妹同ぜ…」

「本当に大切なら…
こんなメダル一枚なんかに拘らない筈よッ!!」

その言葉にドロップは口ごもる
悔しいけど目の前の名の知れない彼女の言う通りだった

心配するキャンディの事を棚に上げて
自分の願いを叶える事だけに頭が一杯だった

「…ごめん、キャンディ…」

落ち込むドロップをよそに、女性は
パァンと両手を叩く

「さぁてと!」

「お説教はここまでにして
ちょっと休憩しましょっか!」

先ほどまでの怒りの表情と打って変わって
女性はまたいつもの涼しげ顔でニコッと告げた

あまりの切り替えっぷりにドロップは思わず
呆気に取られた

気付けば、日も暮れている
女性は焚き火で暗闇に包まれる辺りを照らす
ドロップよりも年上なのだろうが、随分と手慣れている印象だった。

女性から渡されたのは見たこともないロゴが入った缶詰だったが、それがこれまで食べたどの味とも比較にならず思わずがっつくドロップに
女性は、ハンカチを差し出す

「これで拭きなさい、レディとは思えない
食べ方よ」

食べ方を指摘されてカァッと恥ずかしくなった
そういえば、空腹だった

そんなドロップにクスりと笑う女性にムッと
来たがまず聞きたい事があった

「あの!助けてくれた事に代わりないんだし…
追いかけてこう言うこというのもあれなんどけど…貴方は一体…」

「あら、私の事が気になるの?
教えてあげたらこの金貨を貰ってもいい?」

「なんでそうなるのよ…」

女性の言葉が意地悪そうに聞こえ
質問する気が失せてきたドロップだったがそれでも聞いた

「…じゃあ、名前だけでも教えてよ」

「人に物を尋ねる時はまず自分から…って
教わらなかったっけ?」

相変わらず意地悪に聞こえたが、これに関しては
正論だった

「私の名前は…」

「…アメ」

「えっ?」

先に名乗ろうとするドロップより先に
女性は口を開いた

「名前よ、知りたかったんでしょ?」

「でも、まだ私は名前を言ってな…」

「気が変わったの」

アメと名乗った女性は相変わらず意図が読めなかったがふと気づいた事がある

彼女の服にはある筈の、バンカーの証である
バンカーマークがないことに

代わりにぶら下げてるのは金貨…と思ったのは
単に円環の中にある筈のX字をくり抜いたかの様に空洞が空いた○型のエンブレムだった。

「もうひとつ、私はバンカーだったの…」

「だった…?」

「もう昔の話よ、物事に終わりがある様にバンカーなんていつまでも続ける訳がないじゃない」

「それじゃ、どうしてここに…」

「強いて言うなら墓守よ、金貨に釣られて
墓荒らしに来るさっきみたいな連中が許せなかっただけ…貴方を助けたのもついでに過ぎないわ…」

それを聞いて気付いた、いまキャンディに入れた
あの金貨の山は…

「貰っておきなさい」

「えっ?」

コチラが口を開くより先にアメが言った
どうやら光ってるキャンディを見たときに全てを察していた様だったが…何故?

「偶然とはいえ貴方が見つけたんだから何かの縁貰っておきなさいと言ったの」

「でもいいの?」

「大丈夫よ、それに…」

急にアメが口ごもり一瞬、間が空いた

「ソレ持ってた人…もう帰ってこないから」

この金貨の持ち主は 王と呼ばれたバンカー…
そう宿場で聞いていたが彼女は関連があるのだろうか?

アメの表情が一瞬、憂えた気がしたが
金貨を一枚取り出すと直ぐに元の口調に戻り

「それにしても、不思議よね」

「えっ?」

「いつ何処で、誰が、何の為に作ったのか
存在理由が解らない金貨と呼んでるメダルの為に
みんな、血眼になって戦うなんて」

アメはまるで見下ろすかの様に金貨を眺めながらそう言っていた

「そりゃあ、金貨を集めて願いを叶える為でしょ?貴方だって元バンカーなんだから」

「ふふ…そうね」

ドロップの反論に臆せず、アメは相変わらず涼しげな顔で笑うと、ドロップに目を向けた

「なら、貴方はどうかしら?
さっきみたいな無茶をしてまで叶えたい願いって?」

アメは突きつけるかの様にドロップに視線を
向けている

「結果的にとはいえ貴方を救ったわ、二度もね
だからお礼代わりに、質問に答える事も礼儀の一つよ」

そう言われ、ドロップはアメにこの地に訪れた
理由を…早く大人になりたい願いを…その動機を気がつけば全てを語っていた。

こんなこと…かつての旅で親しくなった仲間
ウインナー以来だった 自分の事を語るなんて

結果的にコロッケ達にも知られたけど

「へ~、ロマンがあって良いじゃない
まるで王子様に恋する異界の姫みたいな」

アメに言われて一瞬、恥ずかしくなった
思わず頬が赤くカァっと熱く感じたが、
次の彼女の言葉は、ドロップにとって氷の様に冷たかった

「…おとぎ話に過ぎないけどね」

「どういうこと?」

「貴方の願いを聞いて気になった事が
三つあるんだけど、まず一つ」

「貴方だと解るかしら?」

「えっ?」

「大人になるに連れて見た目が変わるのは
誰でも同じよ、でもいきなり容姿が大きく変わった貴方を見て、彼は気付くのかな?」

「その時はいくらでも説明するわよ!
そうすればマロンだって私って解る…」

反論するドロップの声を遮り、アメは質問を続ける。「仮に想いを伝えたとしましょう、二つ目は
その時、姉はどうなるのかしらね?」

その言葉にドロップの声が止まった
お姉ちゃん…クリーム…

「そのマロンって人が、貴方の姉と親しくしてるのなら、大人になった貴方が彼と結ばれたら
彼女、どうするのかしらね?」

アメの言葉がドロップの心に刃物の様にグサグサと何度も突き立てられる

でもなんで?姉の事はまだ言っていない
なのに何故、アメは私に肉親が居る事を…しかも
マロンと親しい事を知っているのだろうか?

だが、ドロップの今頭の中に嫌な事を想像した
姉クリームが一人で立ってる、私の事を睨んで

「ちがう!お姉ちゃんはそんな人じゃない!
お姉ちゃんだって…お母さんだって…私の事を認めてるくれる…」

脳内の光景と言葉を振り払うかの様に、
気づけばドロップは、怒りのまま大声をまくし立てていた

沸騰したヤカンの様に全身が熱かった

アメは変わらず、動じていない 
「三つ目…貴方は本当に大人になれるのかしら?」

「…えっ?」

「バンキングは貴方の願い通りにしてくれるでしょうけど本来、経験する筈の時間をすっ飛ばして一気に歳を取るんだから…中身まで大人にしてくれるなんて保証はないわ、それに」

「私が質問した時の、貴方の動揺ぶり…
正直、貴方の願い通りの結果になるとは限らない」

さっきからアメの言葉一つがまるで蜘蛛の巣の網の様にドロップを絡めとるかの様に固まる…どうして彼女はそんな事をすらすら平気で言えるのだろうか?

しかしアメは容赦なく冷徹に言葉を続けた

「確かなのは、貴方が離れて旅をしている間
貴方の故郷では時計の針がどんどん進んでるの

ひょっとしたら貴方の想い人も姉と結ばれてるのかもしれないけど…それならまだ良かったと思える方…」

ドロップの心臓の鼓動が止まらなかった
まるで身体から突き破って飛び出してきそうな程に心身は不安定だった

「…あと一つ、質問を足すね」

次の言葉で、トドメを刺した

「もし、故郷が…貴方の家族…想い人が
死んでいたら?」

「もうやめてッ!」

ドロップの中でパァンと何かがはじける様な
音がした、持っていた缶詰をいつの間にかアメに投げつけていた

「どうして…そんな事がいえるの?!
お父さんが…お母さんが、お姉ちゃんが…
…マロンに限ってそんな事はあり得ない!!」

「私は絶対、…願いを叶えて
皆に認められて…故郷に帰るの…だから
その金貨を渡さないんだったら!奪うまで!
その為に、今日まで」

「…本音が出たわね…」

アメの被っていたローブが開くとドロップを包む

「貴方に真実を見せてあげる」

気がつくと広野にドロップは立っていた

あの女…アメの姿はなかった キャンディも
辺りを見渡すと二人の人影が見えた

一人はタキシードの様なスーツを着た趣味の悪いルックスをした猫の様な男

もう一人は赤いヘルメットを被り頭に豚型の貯金箱を乗せ、背中にはハンマーをぶら下げた少年

まさか…ドロップは走った 間違いなかった

「コロッケ!ッそれにウスターもッ」

懐かしさすら感じる二人との再会に思わず
泣き出しそうなぐらい嬉しかったが二人は
キョトンとしていた、そうか、急に仲間から抜けたんだから驚くのも無理はないか、そう思っていた矢先だった

「お前…誰だ?」

「えっ?…」

今…なんて…

「おいおい…何で俺等の名前を知ってんだ?」

思いもしないウスターの発言にドロップは信じられなかった

「誰って…ドロップよドロップ!
ずっと一緒に皆で旅をしてきたじゃない!?」

きっと抜けたから、二人は忘れたフリをして
あとで驚かそうとしてるんだ、これはそういう
サプライズだきっと そう思ってたドロップの意図とは違い二人の顔はキョトンとしたままだ

「なぁ、俺の事を知ってるのか?みんなって
一体、誰のこと?」

…うそ

コロッケの言葉に、ドロップは動揺が
止まらない 

「なぁ、行こうぜ、きっと俺等の金貨を狙って近づいてるバンカーに違いないぜこの女…」

気味が悪そうな顔でウスターはコロッケの手を
引っ張ってこの場を去ろうとする

呆気に取られていると

「なぁ!」

コロッケの声に、思わず目を開く
そう、彼ならきっと…

「お前!ドロップて言うのか!
また会えるといいな!」

もうよせと言わんばりにウスターは更に
手を引っ張りコロッケたちは遠退き姿も小さくなる、ただ二人が見えなくなるまで、ドロップは立ち尽くすしかなかった。

「…何で」

状況が飲み込めないドロップの背後から
気配が感じた

「彼らが貴方を知らないのは当然よ…」

「いつの間に!?…貴方の仕業ね…
二人に一体何をしたの?!」

「別に、私はただ貴方をここに連れてきただけ
もう一度言ってあげる…彼らが貴方を知らないのは当然だって」

アメの言っていることは理解できない

「どういうことなの?」

「この光景を見ても、まだ解らない?
長旅の始まりの頃を…」

「まさか…」

ドロップには既視感があった事に、ようやく
気づいた ここは間違いない
コロッケと最初に出会った時の場所だった 
でも、二人が自分の事を知らないのは当然だと
アメの言葉が全く解らない

これもこの女の能力?

「可能性とは本来、枝分かれみたいにバラバラになって分かれてるの。この世界の時間軸に、貴方は関与しない、彼等の記憶にドロップという人物は存在はしていない」

未だ状況が飲み込めない

存在…しない? 一体何を言ってるのだろう?

「いや…ひょっとしたら、コレが本来の時間軸かもね…」

アメは、またあの冷たい目でドロップを見る

「こうは考えられない?今まで貴方が体験してきた全てって、物語に介入したと思っていた貴方の作り話だって事を」

ちがう…

「あたかも、自分がまるで彼等の一員になったと思い込んでいただけで、本当は夢に浸っていた…なぁんてしたらとんだ喜劇だけど」

「違う!こんなの!認めない!
これも全部、私を惑わすだけのアンタが仕組んだ幻想よ!」

「みんなと過ごした、あの時間が嘘だったなんてそれこそが嘘よ!」

アメの言葉を振り切るかの様にドロップは駆けた姿の見えないコロッケ達を追って

そうよね、私がコロッケとみんなと出会わなかったって。そんなのある筈がないじゃない

どこまで走ったのだろうか、闇雲に駆け抜けていると辺り一面が暗闇に包まれていた

目の前に光がある、あそこを出ればこんな世界から抜けられる そう思って走った そして出た
ドロップの知ってる世界とは違った

回りには観客席がある。目の前には十字型の
ステージがあり下には、灼熱の溶岩が見える。

この光景を、自分は覚えている。
次の王様、誰だ大会…語呂の悪いネーミングだが
あの時と同じ、ステージで戦ってる二人を見た

リゾットとカラスミだ

故郷を奪ったカラスミから王国を取り戻す為に
死闘の末、リゾットは勝ち両親と再会し、敗北を認めたカラスミは仲間を連れて王国を去る

大団円と呼ぶに相応しい記憶だった…
だがその結末は、ドロップの知る物とは違った

身体を両断され溶岩に落ちるカラスミをリゾットは必死に引き上げるが、その手を振り払いカラスミは溶岩へと消えていく

絶叫と共に、向こうで泣いてる少年がいた
カラスミの弟…アンチョビだ

なんで…自分の知る物語とは違う顛末に
動揺が止まらない

「言った筈よ…ここは貴方の知る物語とは
違う、異なる世界だって」

隣の客席にアメが座っていた
コチラを見ず、ドロップ同様、向こうで起きている惨状を見守る様に

「うそ…こんなの…ちがう」

「でも、これが現実かも知れないわよ
現に、あの向こうに貴方はいないのだから」

「違う!」またもやドロップは走った
頭がおかしくなりそうだった 自分の知る記憶と違う事に、いったい 出口は、どこなの?

どうやったら、この世界から抜けられるの…
終わりの見えない道をひたすらさ迷う末に
ふぅっと足場の感触が消えた

ドロップは落ちていく 

落ちていった先で、身体の自由が効かなくなるのを感じた、回りを見る、壁があった。
助かったと思ったが、違っていた。

自分が壁になっていたのだった

そうか…わたしは今、夢を、悪夢を見てるんだ
あの毎晩、見る延長線上に自分はいるだけと

意識が遠退く、悪い夢は早く覚めないと
そしたらキャンディが起こしてくれて
わたしは、いつもの世界に戻れる

目を開けると、いくつもの星がある 夜空だ
身体を起こす 海? 何故か水面の中で自分は
目を覚ました 

「やっと起きた」

この声が夢ではなく、現実だと気づかされた
目の前にキャンディではなくあの女 アメが
背を向けて立っていた

「ここは…いったい…」

「まだ夢だと思ってるんでしょうけど
これが世界、現実よ」

アメが眺める夜空を見てドロップは思わず
見入ってしまった、幻想的ですらある、自分が
みたどの光景の比ではなかった

「これも、貴方がいう世界のひとつなの」

「いや、これが全て」

アメは両手を広げて十字の姿勢になる

「ここは、バンカーも、人も、動物も、
全ての時を全うした命が集い、そして帰る場所

始まりからの 終点地 エンドポイントよ」

全ての いのち? 終点?
アメの言葉が飲み込めない いや意味を知るのを恐れている事にドロップは気がつく

そんな彼女の真意を突きつけるかの様に
アメは言った

「これがどういう場所か、解るわよね
もう帰る術はない」

まさか 死後の世界…?
ドロップは慌てて辺りを見る

どこも海しかない 足場のない 陸地もなかった
心が不安になる

「でも…あの扉を開ければ、ここを出られる」

アメの指が差す方角をみると扉があった
金貨の様に黄金色に輝きエックス字の×の形だ

ドロップは扉に駆けたドアノブを回そうと掴むと
頭に急激な頭痛を感じた まるで針を脳に突き刺すかの様に稲妻が走り 両手で頭をかばう

「その扉には、これまでも、これからの
貴方が経験する全てが詰まっている」

全て?

「どんな世界や時間軸であろうと最終的に辿る
結末は共通して一つ…扉を開くことはその顛末を知ることになるわ…貴方がまだ知らない事をね」

ドロップは思わずノブから手が離れた
心臓が跳ねる様に鼓動が激しくなっていた

まさか…この扉を開ける事を
世界に戻る事を恐れている

「そして現実へと戻る鍵は、私が持っている」

アメは構える これまでと雰囲気が一変して

「来なさい、貴方が体験したというこれまでを
全てを、私にぶつけてみなさい」

そういうことか、やはり彼女もバンカーだ
過去ではなく、現在もそうであると その瞳が
証明をしていた

やっと状況を理解した
その方が、シンプルで分かりやすいドロップも構える

「そうね!私はこんな所でいる程
暇じゃないの」

戦闘には、自信がある 相手は引退上がりだから
経験の差はあれど、負ける筈がなかった

その筈だったが、アメは最初の時と同じ様に
ドロップの攻撃を軽々しくかわす

一向に攻撃はしてこない

だがドロップはアメの動きを観察していた
彼女は水遊びではしゃぐ子供の様に水面を跳び跳ねている、着地の瞬間を狙えば

そう計算通りアメは高跳びをした

今だ


「レインボーパールギャラクシアン!」

両手を上に掲げ、足を下に突き
バレリーナダンスの様な姿勢で全身を高速回転しながらアメに向けて全身を矢の様に突っ込む

いくら彼女でも、着地するまでの間は無防備に
なる、攻撃がヒットした やった

…だが当たった先には、手応えはなかった
水しぶきが終わると攻撃を当てたドロップの足の爪先をみるとアメの長い布状のローブだった

「踊り子の様に回転させ、矢の如く全身を
ぶつける技ね…」

いつの間にか、アメはドロップより高く
宙に舞っていた 

「でも、それだけ」

次の光景にドロップは目を疑った
アメは全身を回転させそれに連なり辺り一面の
水面を自身に引き寄せ、塊を作っている

まさか

アメは片手を突き刺すと、水で作った塊を
一気にドロップに向けて破裂させる

勢いよくドロップは地面に叩きつけられるが
幸いにも、下は水でクッション代わりとなる

だが、幸運もそこまでだった

目の前には布状のローブが円環を何重も描くかの様に自身を囲んでいる、そしてアメは全身をドリルの様に回転させながら、ドロップに突っ込んでくる

さっきといい、あの構えには見覚えがあった
ドロップ自身の技だ でもいったい何故

気づいた時には遅かった

避ける間もなくアメの攻撃がドロップに直撃した
顔面にするどい衝撃か走った

ドロップも同じく、身体を回転させながら
吹き飛ばされた 

どうして…アイツが 

水面の中に倒れた 息が苦しい
這い上がった 目の前にアメが立ってる

ふらつきながらドロップは立ち上がる
頭がくらくらしている 気絶しそうな程に
意識は朦朧としてた

「あらあら、酷い顔…血が出てるじゃない」

えっ?

ドロップは水面に自分の顔を映した
頬が赤く腫れ上がり、鼻血が出ている

…うそ、そんな

今までみたこともない自分の顔に
ドロップは戦慄した

「別に泣きついてもいいのよ、仲間や家族に
怪我をさせたのは事実だから、言い訳はしないわ」

「でも、ここに居るのは、私と貴方の二人だけ…
誰も助けてなんかくれないわ…それに」

「頼ろうと少しでも思った時点で
子供以下だけどね…」

今の言葉に、思わず逆上し
アメに突っ込む、もはや技ではなく
殴る、蹴る等の原始的な、野蛮な手段だった

そんな闇雲に振ってるだけでは相手にはならず
両手足をかわしなぎ払われ、またもや水面にドロップは地をつく

無様だった…こんなの誰にもみられたくないのに

「教えてあげるわ、コレが、貴方がなりたかった大人の世界よ」

「大人になるということは、これまでの経験が総じて勝手になるもの…でも貴方はそれに見合うだけの経験を重ねたのかしら?」

「やったやられたで怪我を重ねるのは
男も女も関係ない、バンカー以前にお互い様でしょ?貴方は仲間達と同じ様に自分以上の存在と戦っていたといえる?」

「貴方が私に一つも攻撃を浴びせられない理由もそれ、貴方にとって仲間なんてものは単なる隠れ蓑で自分は隙間にずっと隠れてきただけじゃないの?」

「違う!私は」

言葉で反論しつつも、アメの言葉が
ドロップに突き刺さる

「なら、何故故郷を飛び出したの?
本当に想ってるのなら、彼の幸せを、姉の幸せを見届けられた筈、でも貴方はそうしなかった」

「もう一つ、教えてあげる。貴方は大人になる為に故郷を出たんじゃなく、ただ逃げたかっただけ。現実を受け止め切れなくて…」

「貴方がそうして一人を選んだのも、強引に歳を取ろうとする自分自身の矛盾に嫌でも思い知ったからじゃないの?」

彼女は…アメはいったい何者なの?
私がサラミッドで言われた事を 

無理に大人になっても後悔する
若さを大切にしなさい

あの時、ラヴィオリと名乗った幽霊のバンカーは消えていく時 そう言い残した

あの言葉が、ドロップにずっと引っ掛かってた
仲間の言葉を胸に、間違っていないんだと
前へ進んでも 忘れられなかった

悔しいが、アメの言葉のひとつ全てが
間違ってない事に、気づいた

私は、ずっと仲間に頼りっぱなしだった
いやそもそも彼らと出会う以前から

強いバンカーに取り入って楽して金貨を
得ようとしてるだけの自分は女狐に過ぎなかったのかもしれない

…でも!

ドロップは立ち上がった

ドロップの頭には、懐かしい顔が浮かぶ
コロッケ、ウスター、プリンプリン、リゾット
フォンドヴォー、キャベツ、ダイフクー、
Tボーン、ウインナー、シャーベット

彼等と出会ってからは自分は今までの様に
高みの見物ではなく、確かに共に戦った

あの旅で、自分の中で何かが変わったのだ
彼等と過ごしたこの記憶は思い出は決して
嘘などではなかった

「貴方の言う通りかもしれない…強い者に取り入って、ずっと現実から逃げてただけ…
…でも!私はもう逃げない!どんな現実からも
貴方からも決して!」

「いい眼よ…でも」

「私に勝てない限りこの夢から覚める事は
できない」

アメが再び舞った、また仕掛けてくる気だ
ローブが円環の様に取り囲んだ

今度はそれを逆に利用した
ドロップはアメが伸ばしたローブに飛び写り
そのまま彼女の元へと 正面から向かう

「…賢い判断とは言えないわ…
やけっぱちの自殺行為よ…」

そう言うと、アメは再び全身を回転し始めた
あの構えを私は知っている

レインボーパールギャラクシアン
編み出した自分自身だけの技だ

それを、彼女が真似ている
単調だから応用しやすいと言わんばかりに

そう…元が私の技なら、その特性を自分が知っている わたしだけにしか知り得ない事を

アメは稲妻の様な早さでドロップに向かってる
まだよ そのまま真っ直ぐ 来なさい

今よ 自分に言い聞かせる
直撃するギリギリの瞬間を見計らいドロップは
跳んだ あの技は途中真っ直ぐ突き進む

思った通りに自分とアメとの距離が開いた
ドロップは再び踊り子の様にからだを回した

コッチも教えてあげる
コレが、わたしだけが編み出した、真打ちを

脳内に仲間の顔がいくつも浮かんだ
そうだ、みんなといたから、わたしは変われた
あの時、過ごした時間は決して無駄ではなかったのだと改めて実感した

だからこそ、証明しなければならなかった
彼女に 言葉では伝わらない、わたしが経験した全てを

「レインボーパールゥッ…」

「ギャラクシアァァァァァァァァンッ!!!」

ドロップのキックがアメに直撃した
アメは物凄い勢いで吹き飛ぶ 扉に向かって

扉にぶつかると共にドアが開いた

勝った…アメの姿はなかった
ぶつかった拍子で、ドアの向こうに消えたのだと
開きだした扉から光がドロップを包んだ

思わぬ眩しさにドロップは思わず眼を閉じる
瞼の中での光が薄くなるのを感じ、眼を開く

「…何…コレ…」

わたしは現実に帰ってきた?
だが、目の前にあるのは先程の天秤型の山ではない、広野だった。いや、正確には辺り一面が焼け草木すらない野原と化していた。

気づいた事が、もう一つある
周辺を見渡すと奇妙な物体がいくつもあった

人形…?いや人だ、それに何人も横たわっていた
倒れてる人影を確認すると見覚えがあった

ウスター…、リゾット…、フォンドヴォー…
Tボーンも…

足元にボロ雑巾の様な物、覆面だ。
持ち主を知っている。プリンプリンの物だ…

まさか、アメの仕業だろうか?
辺りを見渡しても誰もいなかった

思わず呼ぼうと口を開きかけた、その瞬間
向こうに誰かが立っていた。

アメではなかった、背も低い 少年だった
豚型の貯金箱 キャンディと同じ生きてるバンク
間違いない、コロッケだった

目の前には、バンキングがいた
彼もまた願いを叶える、チャンスに恵まれたのだ

反射的にドロップは、コロッケの元へ走る
バンキングにコロッケは何かを、伝えた

近くまで来たが、コロッケがバンキングに
何を伝えたのか、まるで聞こえなかった

その時からだ、異変を感じたのは
ドロップは体を見つめた 体が透けていることを

これは一体どういうこと…

声すらも届かなくなった
コロッケはドロップに気づいてるのか定かでは
ないがコチラの方を振り向く

それは、自分がよく知る彼ではなかった
ヤンチャで明るかった筈のコロッケの顔が
暗く今でも泣きそうな表情をしていた

「コロッケ…一体、何を伝えたの?」

コロッケは口を開く 声は聞こえない
だがドロップは彼の口の動きをよく見た

ご め ん 

そう見えた、ドロップには状況が理解出来なかった。コロッケも消えていく 

うそ なんで 

ちゃんと 説明してよ

言葉にならず口だけを動かしながら
更に消えていく体を動かしながらコロッケに
向かうがその手が届く前に、彼は消えた

そして自分も

気づくと、崖の上に立っていた
回りに雲がある、上を見上げた 天秤型の山頂が見える、帰ってきた?

ドロップの頭には、先程の光景が強く焼き付いていた。

貴方にとって一番ツライ結末を見ると
アメは言っていた…まさかアレが…

今、山の上にいる。だが後ろから突き落とされた様にドロップは絶望し泣きそうになると、背後から何か、温かい何かを感じたローブだ

彼女を包んでいる、振り替えるとアメが立っていたが今までみたどの時よりも雰囲気は一変していた。まるで最初に見たときに感じた 寂しさを

「わたしにもね、どうしても叶えたい願いがあったの。その為なら、なんだってしてきた…夢が叶うのならって…でもそれは、全てを失う事を意味していた…気付いた頃には、もう遅かった…」

ドロップは目を疑った
先程の光景と同じ様に、アメの身体が透けていた
アメは顔を隠していたローブを脱いで素顔をハッキリと晒した その顔には何故か見覚えがあった

「…貴方は、貴方の時を生きて…ドロップ」

今、なんて

最後にそう告げると、アメは光に包まれ
消えていった 最初からいなかったかの様に

まだ名乗ってもいないのに、どうして
わたしの名前を知っていたのだろうか?

一人残されたドロップには状況が飲み込めなかった。少なくとも彼女は幻ではなかった

アメが立ってた場所には、一枚の金貨があった事が証拠だった

また、気配を感じたが自分のよく知る物だ
「…キャンディ…」

キャンディは、ドロップに飛び映りしがみつく

わたしの家族…同じ様にキャンディを抱き締める
気づけばドロップは泣いていた

あれからどれくらい経ったのだろうか?
ドロップは残された一枚の金貨を拾う

ずっと求めていた物…

キャンディは金貨に指を指すと自分の口の中に
合図を送る

そうだ、これを入れると バンキングを呼び出せる、わたしの願いを叶えて 長かったこの旅路も
終わるだろう

だが、ドロップは金貨を入れなかった
心配そうに見つめるキャンディに告げた

「キャンディ、お願いがあるんだけどいい?」

目の前には、金貨の山がある

キャンディに取り込んだ金貨を全て、出して
この場に積み上げたメダルの山を見上げた

「ふぃ~っ、それにしてもよくこれだけの
金貨が入ったもんね」

金貨を出した事で光っていたキャンディも
元に戻っていた。

キャンディはドロップの意図がわからなかった
だが次の彼女の行動には思わず声を挙げられなかった

金貨を投げた この山の上から雲に向けて

キャンディは慌てている 当然だ
必死に集めてきた、バンカーにとっては命よりも
大事な金貨を目の前で捨てたのだから

だが、ドロップは明るく言う

「何してるの?手伝って、キャンディ!」

そういって、また次の金貨を投げる
拾っては投げるを繰り返すドロップを見て

やがてキャンディも、彼女を真似て
金貨を摘まんで投げ始めた

まるで雲を、空をバンクに見立て捧げるかの様に
二人はひたすら金貨の山を積んでは投げたのだ

無我夢中だった、投げている内に今より小さかった頃を思い出していた。こうして池に小石を放り込んでよく遊んでいたっけ

懐かしい記憶に、不思議と楽しかった
キャンディも楽しそうだった

気づくと、あれだけ積み上げられた金貨の山は
無くなっていた

「コレが、最後のぉッ一枚!ちょっ金!!」

最後の金貨を投げ入れた
達成感を感じてドロップは男の子の様に
大の字に寝そべる

心配そうにみつめる、集めた金貨を全て
捨てたのだから、でも不思議と後悔はなかった

「いいの、いいの、もうわたしには必要ないから」

すると暗闇の向こうから、光が、日が差し込むのを感じた、夜明けだ

そして、更に目を見開いた雲が薄くなって
景色が見える、滝だ

滝の方から七色に輝くオーロラの様な物が見える
虹だ

ドロップはこの光景を見つめていた
美しいなんて物じゃ計れない程に、綺麗だった

そういえば、夜明けが来る頃にこうして
空をみていたっけ…あれを見る為に

「よぉっし」

ドロップは声を張って立ち上がる

「キャンディも来てくれる?」

キャンディは元気よく答える
いつもの様に背のリュックに載せて

もう一度だけ、この景色を目に焼き付ける

「…帰ろう」