ある日、免色という謎の男が、高額の報酬を餌に自身の肖像画作成を依頼してきた。この時すでに自分の娘と思しき12歳の少女・秋川まりえに近づこうとの意図を隠し持っていたわけだ(彼女が通う小田原の子供たち向け絵画教室で私が教えていることも調べ済みだろう)が、私は「相手に何か隠された目論見があるのなら、その目論見にはまってみればいいじゃないか。」と気楽な気持ちで免色の術中に嵌っていくわけでした。

 

 

第1巻の109頁に、「彼がいなければこれほどいろんな出来事が私の身に降りかかることはなかったはずだし、またそれと同時にもし彼がいなかったら、あるいは私は暗闇の中で人知れず命を落としていたかも知れないのだ。」とあるが、免色は詐欺師のごとく言葉巧みに近づいてくる男だから、やはりここは君子危うきに近寄らずで一切関係しない方がよかったのだろう(実際は、普通の人は、抗しきれるものではないが)。

 

彼は、「騎士団長殺し」絵の存在など知る由もないのに。製作者の雨田具彦の洋画家時代のウィーン留学時代の情報を事細かく調べ上げて、主人公の興味を取り持つかごとく話を持ち出してきた。

 

 

そして突然鳴り出した石塚の鈴の音で私がどうしたらいいか悩んだ結果、免色に相談してみると、彼の目に鋭い光を宿らせ彼にも音が聞こえてくることがわかりと、早速石塚を発掘してみる手筈を整えることになる。

 

石塚発掘に躊躇し、最悪この家を出ていくしかないとまで思い詰めていたが、感じの良い笑みを口元に浮かべた免色が「気にすることはありません。あなたのお役に立てることは、私にとって何よりの喜びです。」と私の不安を解消しようとした。それに対して私は「彼はどうしてあれほど嬉しそうな顔をしたのだろう? 彼は本当に私の役に立てることが嬉しいのだろうか? どうして? 私にはよくわけがわからなかった。」と疑問を呈していた。

 

「なぜ私みたいなものに免色は個人的な興味を持つのだろう?」とまで感じていたのに結局、免色に石塚発掘の主導権を奪い取られてしまい、その後の展開は免色主導となってしまう。

 

そして、石塚から出てきた古代の鈴とイデアの騎士団長の存在。

 

免色が穴を開き、私が鈴を家に持ち運んだことで騎士団長は家に入ることができたとイデア自身が語った。免色の尽力がなければ、穴が開くことはなく彼には感謝していると語っていた。

「免色くんか私を夕食に招待されているが、あたしの姿は諸君には見えるが、免色くんの目には見えない。ミイラでの騎士団長でも関係あらない。あたしは招待されない場所には伺えないので、当初のミイラから騎士団長で改めて招待し直してほしい」

 

ここでは今のところ、私しか騎士団長を見ることができないが、後には秋川まりえと雨田具彦にも見えることがわかる。

 

ここで不思議なことは、後に雨田具彦にもイデアが見えていたことが判明する。だったら雨田具彦が認知症になる前、小田原で絵を描いたときにイデアはなぜ現れなかったのか、現れていれば雨田具彦が解決すべき問題だったはずですが。そこのところどうなんでしょうね~よくわかりません。

 

さらに、私のよく家に訪ねてくる人妻の愛人(主人公は人妻と気軽に関係して気にならないわけだが)によると、免色家には鍵のかかった「開かずの部屋」があるそうで、彼の屋敷は別名「青髭男爵」の城と呼ばれているそうだ。

その屋敷に絵の完成のお礼に夕食に・主人公とイデアの騎士団長が誘われた。

 

そこで、免色は唐突に自分の娘の可能性がある女の子の話を切り出した。

屋敷はまりえの様子を観察するために強引に手に入れたもので、テラスからは毎晩、夜でも鮮明に人が見える軍用の双眼鏡で彼女を観ているというストーカー野郎だった。

 

 

高性能の双眼鏡で覗いて見ていたのは、案外他のものもついでに見えていたかもしれない。例えば、注意深いまりえとは違い、脇の甘い叔母の笙子なんかは生着替えシーンを晒していたのかもしれない。普通なら誰でもがそう考えてもおかしくない変態男が免色だろう、でも覗き見は、痴漢と同じで現行犯でないと逮捕できないので、残念だけど彼を逮捕できません。

 

 

「まりえ」らしき娘を産んだと思われる免色が唯一愛した女性のために、私の中(と表現しているが体の中?自宅の中?)に彼女のためだけの特別な場所があり、それは具体的な場所で「神殿」と呼んでもいいと、それが鍵のかかった「開かずの部屋」ことなのかは不明だったが。

 

そして、かつてその女性が免色の精子を意図的に収集して妊娠した可能性が高くて、それが今13歳になる秋川まりえであるとのことだった。

 

そこで、私がまりえの写真を持っているかと免色に尋ねると、「それを持つことが何の役に立つだろうか?私が求めているのは・・・(その回答はなかった)」ー では肖像画なら役に立つのか? それは違うと思うのだ、ほんとは実物のまりえを手に入れることが免色の真の希望なのではなかろうか。そして、そのために綿密な策略を巡らして主人公に接触してきたのだろう。

 

それゆえ免色は「まりえという娘から目を離すことができなくなったのです。」と打ち明けている。それ故、毎晩、まりえを双眼鏡で観察しているわけだ。

 

私は「免色さん、・・・あなたは僕に何かをして欲しいと考えておられるように見えます。僕の思い過ごしでしょうか?」と尋ねると、免色は「実際、どう申し上げればいいのか・・・(その回答もなかった)」

 

そして、免色は、まりえの肖像画を私に描いてほしいと依頼してきた際、完成したらそれを買い取りたいと行ってきた。しかし、重要なのは以下からであった。

 

そこで、「求めておられるのはそれだけですか?」と尋ねると、免色はもったいつけた末に「正直に言いますと、もうひとつだけお願いしたいことがあります(こちらが本当の目的だったのだろう)。それはとてもささやかなことで、まりえさんが絵のモデルとして在宅の折にお宅を訪問させていただきたいのですがいかがでしょうか」

 

その申し出については、考えれば考えるほど、私は居心地の悪さを感じた(では、なぜ断れなかったのか?理由ならなんとでもなるのに)。

その後で、「今回、私の家で彼女と実際に会おうと決心されたわけですが、それはなぜだろう?」との私の問いに免色は「それはあなたという人が仲介者として存在しているからです」

 

いくぶん奇妙な、または屈曲した見方・考え方だと思ったが結局、主人公は「それについては特に問題はないと思いますよ。あなたが偶然ふらっと立ち寄った家で、みんなで世間話をする。それは全然不自然な成り行きじゃないでしょう。」などとあまりにも短絡的に答えてしまうのであった。

 

それを聞いて免色は、目的達成とばかりほっとひと安心しただろう。

 

それで話をし終わるかと思いきや、さらに雨田具彦のオーストリア留学時代の話を上機嫌に付け加えるサービスをする食わせ物ぶりなのだ。

 

さらに、免色は「正直言って、ときどきあなたのことがとてもうらやましくなります」と主人公も訳がわからないことを仄めかしてくる。主人公には思い当たる節はないわけだが、免色にはない画家として成功してはいないが、いろんな女性とは関係しているー不倫相手の人妻とのセックスや秋川まりえと親しく話せることくらいだろうか。

 

第3巻の69~70ページに、秋川まりえから免色に関する話があった。

まりえ:「免色さん あの人は多分なにかを心に隠していると思う」

まりえ:「免色さんが今日の午後、ただ偶然立ち寄ったというのは、多分ホントじゃないと思う。きちんとした何かがあってここに来たんだという気がする」(・・彼女の驚くべき感の鋭さ、主人公のなんと鈍いことか)

「でもどうして私たちが今日ここにくることが。メンシキさんにわかったのかしら、先生が教えたの?」(主人公も流石に驚いたことだろう、コイツが免色の片棒を担がなければややこしいことを避けることができたのにな)

「あの人は不思議な目をしている」とまりえは指摘し、さらに「目がいつもなにかしらつもりを持っているみたいに見える。赤ずきんちゃんの狼と同じ。たとえおばあさんのかっこうをしてベッドに横になっていても、目をみればすぐに狼だとわかる」とズバリ言い当てている。

 

 

まりえは主人公の家に来た免色と叔母の様子を観察していたら、自分には脇目も振らず叔母をじっと見て、その顔立ちに惹きつけられていると感じた。免色は笙子が自分の銀色のジャガーに関心あるのを見てとると、笙子の父が持っていたジャガーの話からさらに、自宅にはEタイプを持っていることまで話て巧みに車を餌にして笙子の心を手玉にとり、「青髭男爵」の城に引き込むのだった。

 

 

また、叔母の笙子は免色に「彼の肖像画を見に行くこともとても楽しみにしている」と言っている。

 

しかし、「きれいなしらがのメンシキさんは、何かを背中の後ろに隠していると思う」と語り、その指摘は主人公など到底及ばないし、まりえの洞察力がずば抜けていることだろう。

 

第3巻の156~167ページに、騎士団長から免色についての話があった。

「免色くんにはいつも何かしら思惑がある。必ずしっかり布石を打つ。布石を打たずしては動けない。それは生来の病のようなものだ。左右の脳を常時めいっぱい使って生きておる。」

 

さらに、255ページには、免色に招かれた夕食会後にイデアの騎士団長がスタジオに現れて「免色くんは、なかなかに関心をそそられる人物であった。いろいろなことを先の先まで考えている男だ。そしてまたあれこれを、内部にしこたま抱え込んでいる男でもある。だから彼からの電話にはよくよく考えてから返答する方が」としっかり注意喚起してくれていた。なお、「免色くんがやっていることも、「気の毒だが無駄な試みだ」という部分は、残念ながらこの小説では描かれていません。

 

そして、第3巻の161~162ページに、私が免色を問いただす場面があった。

「僕としては、何が偶然なのか、何が意図されたことなのか、その辺のことを測り兼ねているだけです。それはあまり居心地の良い気持ちとは言えません」→免色に対して

「なんだか自分が『トロイの木馬になったような気がするんです」→免色に対して

 

免色がそれ対して余裕の笑みを浮かべて「秋川まりえに接近するため、私をトロイの木馬に仕立てた? たしかにそう思われても仕方ないかもしれません。でも、ものごとはあくまで偶然の積み重ねにより運んだと主張したのだ。そして私はあなたに好意を抱いていますので、あなたをトロイの木馬にしたりはしません。どうか信じてください」と釈明したため、私はそれを信じてしまう。

 

しかし、それ以前に主人公はある程度この男の性癖について気がついていた節がある「私は絵画教室の主催者をよく知っており、たまたま教室の出資者ないしは後援者なのです。だから、私があなたの人物保証をすれば、まりえさんの家族も安心するでしょう。」

その時、この男は全てを計算してことを進めているのだと思った。彼は起こりそうなことをあらかじめ予測し、囲碁の布石のように、ひとつひとつ前もって適切な手を打っておいたのだ。偶然とかたまたまなんてことはあり得ない。

 

おそらくこの男はそこにある「いくつかの実務的な問題」を「手を回して」うまく解決していくことだろう。もともとそういうことを得意としている人物なのだ。

さらに、「秋川まりえが私の子供なのかどうか、それは重要なファクターではないからです」とまでいいはなっているくせに、主人公がまりえの絵を描いた際には、自分との類似点をしつこく聞いてきたりした男なのだ。免色は「とにかく絵を描いてくれたことに感謝してます。とてもいろんな意味で」と不思議な言い回しをした。免色の頭の中は計略で頭がいっぱいなのだろう。

 

多分、まりえが叔母の笙子になついていることを承知の上、主人公をうまく活用すべく計画を立てていたはずに違いない。

 

そして、この時点ですでに免色の計略の肝心な部分は達成されたため(まりえの叔母・秋川笙子の心を射止めることに成功した)、免色にとっては主人公の疑念などもうどうでもいいことなのだろう。

 

【ごまかし上手な免色さん、仮面を被った免色さん。】

 

それゆえに秋川まりえが突然の失踪をしてから、唐突に、多分意図的に、私に秋川笙子との関係を告白しだしたのだ。

 

なぜ免色が笙子との関係を持ったかの動機を私から聞かれると

「わかっていただきたいのですが、私は最初から計算をして、そういう方向に物事を進めたわけではありません。あくまで自然な成り行きでした。自分でもよく気がつかないうちにそうなっていたのです。すんなりとは信じてもらえないかもしれませんが」

 

そこで私が「もしあなたが最初からそうしようと計画していたとしたら、それはとても簡単なことだったに違いないということくらいです。」と振ると

「おっしゃるとおり、それはとても簡単なことだ」と免色は認めた。

しかし、それは認めるが、実際はそうではなかったとも。→なんだ?さっぱり訳がわからんぞ

 

そこで、私が「秋川まりえの存在がなくてもそうなったか」を聞くと。

免色からは「それは難しい仮説です。そもそもはまりえに近づくのが目的でしたが、彼女の存在がなかったとしても笙子さんに心を惹かれていただろう」と自然を装う発言があったが、私は納得しなかった。

「秋川まりえはすでにそのことを知っていたんだよ」と伝えると、免色は驚いて「勘の鋭い子だ」と狼狽えてみせた。でも昔、真剣に愛した女性ほどの愛情は笙子には感じられていないないようですので、まりえの獲得が本来の狙いだと思ってもいいんでしょう。

 

 

数年後、高校生のまりえから電話があり、笙子が免色と結婚したら、「まりちゃんも一緒に暮らす?」と聞かれた。まりえは「ないと思う、でもよくわからない」と答え、そうなると親権やら養育費はどうなるのか父親が新興宗教にはまり、その後どうなったかは語られていないが、統一教会のことを考えれば財産はすでに消えているのかもしれない。そうなれば免色に頼ることが最適かもしれないな。ただ、「神殿」である開かずの部屋、騎士団長のいう「免色の心の中の特別なスペースに住み着いたやっかいなもの=免色であると同時に免色でないもの(免色にも如何ともし難いと騎士団長が言ってたな)」が屋敷を徘徊しているわけだから、免色としては何らかの対策が必要にはなるけどね。

 

でもここでは、例えば笙子が免色と結婚したら二人の子供を作ればいいんじゃないかとも思うのだがどうだろう。

笙子は免色を愛している(免色はそれほどではないようだけど)ようなので彼女が子供が欲しいと言ったら、免色も拒めないだろうし、行く行くはまりえのことや最愛の恋人との神殿について気づかれてしまうとかもしれず、いわゆる「策士策に溺れる」という結果が待ち受けているのかもしれません。

 

ちなみに、第2巻の258~259ページで騎士団長が「あたかも水にザルを浮かべんとするようなものだ。免色くんがやっておるのも、気の毒だがそれに類することだ。」と、結局は無駄な試みなんだと言っているいうことに当てはまるのでしょう。