昨日の朝日新聞1面に電通の新入社員でインターネット広告を担当していた高橋まつりさん(当時24歳・東大文学部卒)が、2015年末に自殺し労災認定が出た記事を目にした。

 

 

彼女は、同年10月9日からの1ヵ月間だけで見ても、時間外労働がその前の1ヵ月間の2.5倍に当たる約105時間に増えていたという。三田労働基準監督署は、彼女を労働災害と認定し、労災保険を支給することになった。

 

業務が大幅に増えたのは、試用期間が終わり、本採用になった昨年10月以降。部署の人数が14人から6人に減ったうえ、担当する企業が増えた。月100時間を超える時間外労働をこなしたこともあり、高橋さんは精神障害による労災認定の基準の一つを超えたと判断された。

 

 

電通では、社内の飲み会の準備をする幹事業務も新入社員に担当させており、「接待やプレゼンテーションの企画・立案・実行を実践する重要な訓練の場」と位置づけている。飲み会の後には「反省会」が開かれ、深夜まで先輩社員から細かい指導を受けていた。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などと注意もされていたという。(朝日新聞デジタル)

 

過去にも1991年、過労死自殺した電通社員の親族が「社員の安全配慮義務を怠った」として、電通を相手に損害賠償を請求する裁判を起こし、最高裁判所まで争い原告の主張を全面的に認める和解をしている(最高裁判決平成12年3月24日第二小法廷)。当時としては破格の億単位の賠償金が話題となった。(電通事件

 

学生の憧れの大企業ではあるが、全くのブラック企業である。背景には出遅れたインターネット広告(トヨタ自動車に詐欺的請求2.3億円が発覚)への焦りが招いたものとも思われる。

 

 

さて、戦前より「富士登山」が恒例行事とされる(「電通通信社史」による)アナクロさが売りの会社で社員として政財界・芸能界等の有力者子弟が多く(一説には全体の50〜60%)採用するため「コネ通」と揶揄されることが一般的である。そのため使い物にならない彼らのため残りの優秀な新人が酷使される体質は昔から変わらないのである。

 

 

同社のアナクロさを裏付けるのが以下(WIKI情報)である。

1936年(昭和11年)、電通は国策によりニュース通信部門を同盟通信社(1936年に発足した同社は、1945年の時点で本社は総務局、編集局、通信局、経済局、調査局の5局27部に区分され、国内は6支社、62支局を抱えた。国外には中国・中華総社(南京)の下に3総局23支局、アジアは南方総社(昭南)の下に7支社23支局が形作られ、国内外合わせて約5500人の社員がいた。)に譲渡し、広告代理店専業となる。

 

当時の情報委員会及び内閣情報局は対外宣伝が政策決定において重要な役割を果たしていた。

具体的には新聞聯合と日本電報通信社(電通)を合併させ新通信社を作ることであった。

外務大臣の内田康哉は聯合と電通の合併に関する下工作を田中都吉に依頼した。

 

新聞組合である聯合の専務理事、岩永裕吉は国家代表通信社創設を自論とし合併には賛成だが、「電通」は優良な私企業で社長の光永星郎の面目もあり慎重であった。

電通とは密接な関係だった当時の陸軍は高度国防国家のため新通信社の設立に協力する意思を外務省に知らせた。

 

6月24日、外務省、陸軍省、海軍省からなる情報委員会の特別委員会「三省委員会」が立ち上げられた。

そこで電通寄りだった陸軍省と聯合を支援してきた外務省が手を携え、電通の広告部はそのまま日本電報通信社として存続させるものとなったのであった。

 

1947年(昭和22年)に連合国軍最高司令官総司令部により公職追放された上田碩三の後任として吉田秀雄が第4代社長に就任し、広告取引システムの近代化に努めた。軍隊的な社則「鬼十則」を作るなど、電通発展の礎を築いた。

 

 

鬼十則

4代目社長吉田秀雄により1951年(昭和26年)につくられた、電通社員の行動規範。来日したGE社長に英文版を贈ったとも言われる。

 

•     仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。

•     仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。

•     大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。

•     難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。

•     取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。

•     周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。

•     計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。

•     自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。

•     頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。

•     摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

 

 

 

2005年(平成17年)、公正取引委員会が調査を開始し、調査報告書において電通の広告業界における寡占化の進行の事実を指摘した上で「公平性、透明性の確保が必要」と結論づけられた、まさに驕りの成せる会社だと言える。