国会の予算質疑において、相変わらず自身の取った政策に誤りもブレもないと言い続ける黒田日銀総裁。
いつ頃目標達成できるのかと問われれば、いつも適当な時期を言って、それでいて実現できた試しもなく。中国の景気や原油安に責任を転嫁し続ける。

経済はグローバル化したけど、日本の社会は何ら変化なく、ホワイトカラーの生産性は先進国でも低いままだ。

「2013 年の日本の労働生産性(就業者 1 人当たり名目付加価値)は、73,270 ドル(758 万円/購買力平価(TTP換算)。順位を見るとOECD加盟34か国中第22位で前年と変わらず、主要先進7か国では1994年から20年連続で最下位となっている。(日本生産性本部調査より)」

ではこの低い「労働生産性」を、どうやって政府・日銀が、毎年1.6%に高めていったらいいのでしょうか? 
しかも、向こう25年間、毎年という制約付きでです。

中曽

さて、日銀の中曾副総裁は、2月12日にわざわざニューヨークまで行って講演を行いました。

この中曾講演によると「わが国の潜在成長率は趨勢的に低下しており、日本銀行の推計によると、ゼロ%台前半ないしは半ば程度となっています。潜在成長率がこれくらい低くなると、経済にわずかな負のショックが生じるだけで、GDPがマイナス成長に陥りやすくなってしまうらしいのです。」


今から思うと、昨年のFRBの利上げの前後から、世界経済の雲行きが、怪しくなってきていました。

(1)中国を筆頭とする新興国の、経済成長の急減速。
(2)新興国投資からの、量的緩和マネーの米ドルの引揚げ。
(3)原油価格の下落による、産油国財政の悪化。
(4)新興国を50%の市場にしている米国の輸出の減少。

そして国内市場の成長がないわが国では、外需を増やす円安が株価上昇の条件になっているので、ドル安・円高では株価は上がりようがないわけです(今や有力な大統領候補のトランプは日本の円安を目の敵にしてますね。到底親日にはなりえんお人です)。

じゃあなぜ「マイナス金利」を断行したのでしょうか。

国内経済の成長が止まった1997年以降、円高になると日本の株価は下がり、円安では上がるというようになってしまったわけです。

このため、「-0.1%というマイナス金利」とともに、「利下げで円高になり、株価は下がる」という事態が生じています。

これについては日銀の政策である「マイナス金利」を、日本の潜在成長率(自然成長率)の低下に求めるというように、日銀が宗旨替えしたものと言えるでしょう。

なぜなら2年9か月ほぼ200兆円分も行ってきた異次元緩和が効かなくなってしまったのは、日本の潜在成長率(自然成長率)が低いためだという、言い訳ができるからです。

日本国内でこの講演をしないで、わざわざニューヨークで行ったのは、「アベノミクスの本命だった量的緩和が失敗だった」ことを日銀自らが認めたわけだけど国内でやれば野党や国民の反発を恐れたからでしょう。

中曽講演の内容は、「日銀の、日本経済に対する本音の解答」と言えるものでした。

日銀は、デフレは貨幣現象であると間違って結論付け、この前提の上に、異次元緩和として現金の増発策を実行してきました(約200兆円)が、実際は、2%のインフレも、2%の実質成長もなかったわけです。

政府・日銀は、マネーを増発するという手段で労働生産性の上昇3%付近が可能であるとしていました。

確かにこれは上位5%のグループでしかない成長企業では可能でしょうが、残り95%を含む260万社全体と一次産業を含む自営業の平均生産性を上昇させるにはまず不可能です。

日銀の中曽副総裁は、異次元緩和が目的としていた「GDPの実質成長」と「2%の物価上昇」の実現が不可能になってきたことから、「日本は、潜在成長率が0%台に下がっている」というマネー以外の事実をもち出したと思えます。

そして、中曽講演では「わが国にとってキャッチアップが引き続き重要と申し上げましたが、結局のところ、経済成長の究極のエンジンは「イノベーション」にほかなりません。・・・わが国の政府が、構造改革の継続を通じて、制度設計面での役割を果たしていくことを強く願っている次第です。」とまで述べました。

日銀何をかいわんや!、でしょう。黒田バズーカなどとマスコミも便乗同調し、結局敗退したのです。
何かに似ている、そうだ先の大戦の敗戦のようですね。所詮、バズーカ砲なんてのは前世の遺物、今や過激派でもロケット砲でヘリを撃ち落とす時代なんですもんね。

「労働生産性を上げるには、企業内の技術革新が必要です(アメリカのマイクロソフトなどのPC革命やアップルのスマホなど)。会社での働き方の変更で、生産性(1人当たりの売上)を増やさねばなリません。

中曽講演の結論はこのイノベーションの必要性とという分かりきった説明でした。
つまりこの結論から、日銀の金融政策では当初目指した目標実現が無理だったと告白したのです。


しかし、政府・日銀が、民間企業のイノベーションを引き起こすことはできません。

ただでさえ規制の壁を打ち破ることができない政府にはせめてイノベーションの邪魔をしないこと、支援することを多いに期待したいものです。

中曽日銀副総裁のNY講演の内容を見て、日銀は、リフレ策の失敗として、それとは言わず敗戦の白旗を上げているようなものです(アメリカでこっそりやるとは卑怯ですがね)。

中曽氏の講演は、金融緩和以外の要素に、経済成長とインフレを求めたものでした。

結論は、日銀が行う異次元緩和とは別物の、「就業人口の増加と企業のイノべーションが必要」という非常にわかりやすいけど当たり前の結論でした。

そして。あるかも知れないと思っていた幻想が、剥(は)がれ落ちたのです。