(「DENON DCD-1650AZ 其ノ壱」の続きです.)
DCD-1650AZは1650ARの後継機で,サイン・マグニチュード方式のBB社製24bitDAC「PCM1704」を採用したCDプレーヤーです. 1650AZではこのPCM1704を片chあたり2個搭載した4DAC構成とし,差動動作させてゼロクロス歪みを解消しています. また,DENON独自のアナログ波形再現技術「ALPHA Processing」を24bitに対応させた「AL24 Processing」を搭載したことも合わせて,静寂の中での微小レベルの音楽再現性をより高めています.

外観はDCD-1650AL(1995年発売)から共通するデザインで,フロントパネルに厚手のシャンパンゴールド調アルミ無垢材を奢ることにより,シンプルながらも高級感があります.
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1650ARとの相違点はディスプレイのカバーが透明化されていることぐらいで,あとはボリュームつまみが青銅色に変色しているところまで一緒です.

ボンネットは薄手のプレス成型品ですが,天板に2本のリブを入れて強度を高め,さらに天板裏に制振鋼板を貼り付けることによって優れた剛性と制振性を実現しています.
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ボンネットの重さは2キロ以上もあり,叩いても鳴りません.
1650ARでは制振鋼板の上にさらに制振材が貼られていたが,1650AZでは廃止されている.

内部を見ますと,電源部やコントロール部,ピックアップ・ドライブユニットは1650ARのそれを引き継いでいるようですが,オーディオ回路は補助基盤が追加されるなど一新されています.
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ドライブユニットを覆う銅メッキ鋼板のカバーを固定するネジが6本から4本に減り,基盤から繋がっていたアース線がなくなるなど,若干の変更が確認できる.

電源部は,独立したデジタル/オーディオ用トランスの下に材質は不明ですが砂型鋳物ベースが使われており,トランスからの振動がシャーシに伝わるのを抑えています. 
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右側の電源回路がデジタル用,左側の電源回路がオーディオ用.
オーディオ用電源回路にはELNAのシルミックコンデンサー,50V 3,300μFが2本使われている.

オーディオ回路のうち,アナログ回路は1650ARと酷似していますが,その右側のデジタル回路は大幅に改良されており,電解コンデンサーの数だけでも倍はありそうです. また,1650ARでは基盤の表側にDACが4個並んで実装されていましたが,コンデンサーの置き場所を確保するためか,1650AZではDACは裏面に移されているようです.
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ディスクリートで組まずにオペアンプを多用しているあたり,如何にも90年代後半のオーディオ回路である.

今回追加されている補助基盤はCDドライブユニットのコントロール回路のようですが,なぜこんなところに??
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補助基盤下はガラ~ンとしている.
左下に見える空のコネクターは,HDCDコントロール配線を繋ぐためのもの?

CDドライブユニット,「S.V.H.Loader」. 
ディスクローダーは樹脂と金属とを重ね合わせたハイブリッド構造で,トレイには防振性の高いプロテイン塗装が施されています. ドライブユニット自体はプラスチックフレームの安物ですが,共振しにくいことを考えれば合理的な設計ともいえます.
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コラーゲン塗装は劣化しやすく,本機でもベタつく症状が出ている.
また,ピックアップの移動はギア式で,選曲には時間を要する.

底面が2重鋼板+シャーシの3重構造なのは1650ARと同じです. シャーシにはメンテナンス孔が開けられ,半田クラックなどの点検・補修にも便利です. 脚は構造が1650ARとは異なり,脚裏もフェルト張りからゴム張りに変更されています.
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シャーシが立派なだけに,脚がプラスチック製のチープなのが惜しい.

予想通り,DACチップは基盤裏に実装されていました. 
チップはBB社製のサイン・マグニチュード方式の24bitDAC「PCM1704」で,内蔵する2個のBalanced Current Segment DACがそれぞれプラスとマイナスの信号を受け持ち,終段で波形を合成して出力することによって,それまでのマルチビットDACの泣き所であったゼロクロス歪を抜本的に解決しています. 
ですので,PCM1704だけでゼロクロス歪みを解消できるはずなのですが,どういうわけかDENONはゼロクロス歪みを解消できる独自技術のΛS.L.C(ラムダ・スーパー・リニア・コンバーター)も合わせて採用しています. 
このため,左右1個ずつで足りるはずのPCM1704を左右2個ずつ,計4個も装備しています.
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4個並んだ「PCM1704」(右)  保護用にチップ表面をコーティングしているため,グレードが読み取れない.
左下はAL24 Processing + デジタルフィルターのチップ? 型式は「DXP6001AF」

中身も見たので,次はいよいよ試聴です.
いつものように,3rdシステムに組み込みました.
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1650ARと並べて設置(上:1650AZ,下:1650AR).

アンプはSANSUIのAU-α607MR,スピーカーはKENWOODのLSF-777です.
ソフトは,F.I.X.Recordsからリリースされている「Pure 2」とSuaraの「The Best ~タイアップコレクション~」から,Suaraの「キミガタメ」,「星想夜曲」,「トモシビ」を選曲して1650ARと比較しながら試聴しました.

で,その音質ですが,一言で云えば「ハイスピードで細部に至るまで鮮明」です.
例えば,「キミガタメ」は出だしがピアノ演奏のピアニシモから始まるのですが,繊細なピアノの響きが明瞭に定位良く聴こえ,次のピアニッシモのパートでは切れ込みよく伝わってきます. さらに歌詞パートではSuaraの声が響き良く艶やかに聴こえ,声帯の震えまでがリアルに感じ取れます. 
総じて中低音域はDENONらしくい厚みのある音ですが,低音域でも音の輪郭がしっかりとしてぼやけることはなく,かと云って固いという感じもせず,量感ある音を聴かせてくれます. 一方,高音域も神経質なところがなく,伸びやかにきれいに聴かせてくれます. また,ノイズ感が少なく透明感があり,音場も左右に適度な広がりを見せて奥行き感もしっかり表現できており,定位も優れています.

エネルギッシュで情感豊かなサウンドの1650ARに対し,ディテールに拘りうまく24bitDACの優位性を表現した1650AZだと思います. 銘機ですね.

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瓜二つの1650AZ(上)と1650AR(下)
ともに90年代後期を代表するCDプレーヤー.