20090129 日経産業新聞

「プロ」育成、効果を精査 ユーザー間で情報交換も
 効率経営を求められているのは企業だけではなく、国の医療費抑制に直面している病院も同じだ。能登半島最大の総合病院、恵寿総合病院(石川県七尾市)はIT(情報技術)を駆使、コスト低減とサービス向上の両立を目指す。過疎地という厳しい経営環境の中でなぜ実のあるIT投資ができたのかを探った。
 恵寿総合病院では、医療器具を棚から取り出す際にある作業をしなければならない。器具に付いているICタグ(荷札)に専用のリーダーをかざして、情報を読み取らせるのだ。この作業によって医療器具をいつどれだけ取り出したのかを正確に把握できる。必要以上に購入して過剰在庫を抱えてしまうリスクを減らすのが目的だ。
職員の負担軽減
 使用する際にもリーダーで情報を読み取り、どの患者のどの治療で用いたのかを正確に記録する。恵寿総合病院の梅田信一・企画開発課長は「医療事故や診療報酬請求記載ミスの防止に役立つ」と説く。
 ミスが少なくなったことで職員の負担が軽くなり、患者の待ち時間が短縮するなどサービス面でも効果が表れているという。
 「IT化は、医師や看護師が本業の医療行為に専念できる環境を提供するのが目的」。恵寿総合病院を運営する社会医療法人財団董仙会(石川県七尾市)の神野正博・理事長は語る。在庫は悪という意識をスタッフに浸透させ、効率化で生まれた時間を患者に対するサービス向上に使うように促したのだ。
 恵寿総合病院がITを採り入れ始めたのは一九九三年。高齢者介護施設の建設など拡大路線を進めた結果、経営が厳しくなり、「改革を迫られたのがきっかけだった」(神野理事長)。
 真っ先に着手したのが在庫削減だ。多品種少量で高価な医療器具や医薬品は、管理に手を抜くと何年も使われないまま倉庫に眠る「死蔵在庫」となりやすい。恵寿総合病院もこの悪弊からは逃れられず、資金繰りが悪化していた。
 そこで現在のICタグを使った在庫管理の前身となるバーコード管理システムを導入した。導入後の三年半で合計三億七千万円の仕入れコスト削減に成功した。
 その後、検査や投薬、注射などの指示(オーダー)を入力すると、その内容が情報ネットワークを通じて関係部署に瞬時に伝わる「オーダリングシステム」を導入した。診療から薬品の処方、会計が迅速かつ正確に行われるようになった。
 電子カルテシステムも採り入れた。診療内容をデータベース化して、必要な情報をすぐに引き出せるようにした。カルテの情報はインターネットを通じて周辺地域の開業医にも提供している。
 神野理事長は「医療器具や医薬品といったモノの管理に役立てるだけでなく、ITを地域全体の医療の質向上に生かしたいという狙いがある」と話す。
 七尾市がある能登半島は東京都とほぼ同じ面積でありながら、人口は東京都の二%未満の約二十万人しかいない。
 しかも病院のIT投資によるコスト削減効果は明確ではない。厚生労働省の審議会である中央社会保険医療協議会が二〇〇七年七月にまとめた調査によると、IT投資で「業務が効率化して人件費が減った」と答えた病院は二二%で、「減らなかった」の二八%を下回った。
 このような厳しい状況の中で、恵寿総合病院がIT投資で成果を得られたのはなぜか。「システム会社の言いなりにならずに、必要な機能に絞ったシステムを構築するように心がけてきた」と神野理事長は答える。
 「情報管理課」という病院には似つかわしなくない名称の組織が恵寿総合病院にはある。職員の中から情報システムの専門家を養成して同課に集め、費用対効果を精査したうえでIT投資を実行するかどうかを決めている。こうすることで、必要な機能だけを持った簡素なシステムができあがる。初期投資も維持・運用費用も抑えられる。
ムダな更新防ぐ
 安く効率的なシステム作りの背景には、「ユーザー会」という組織もある。これは同じシステムを使う全国各地の病院の集まりで、九八年に発足し、恵寿総合病院をはじめとする約二百の医療機関が加入している。同会の同意がないとシステム会社が仕様変更できないようにして、ムダな更新投資を防いでいる。
 地域の医療機関同士がアイデアを出し合うことで、低コストで使い勝手の良いシステムの導入につなげている。メンバーが考案したシステムは他のメンバーも自由に使える。恵寿総合病院でも、処方せんを二次元バーコードで管理するシステムをユーザー会を通じて採り入れた。神野理事長は「オープン(開放的な)な協調がユーザー会の特長」と語る。
 同じシステムでも運用の仕方で効率が変わる。ユーザー会にはシステムエンジニア(SE)を集めた分科会のほか、幹事病院の会合などが定期的に開かれる。そこで運用上手な病院の成功事例を共有している。
 基本は自前で精査するが、助け合える点は他者と協力する。こうした姿勢がIT投資の効果を最大限に引き出し、コスト低減とサービス向上の両立につながっていると言えそうだ。(星正道)
 恵寿総合病院 正式名称は「社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院」。院長は山本達氏。一九三四年(昭和九年)設立の神野病院を前身とする。二〇〇八年十二月一日時点での病床数は四百五十一、職員数は六百二十二人。一般企業の売上高に相当する医業収入は約九十八億円(〇七年度)。

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