20090127 日本経済新聞 朝刊

 「三社統合はむしろチャンス。今こそ攻めに出ろ」。東京海上ホールディングスの隅修三社長は、社内でこう檄(げき)を飛ばしている。
主戦場は自動車
 三井住友海上ホールディングス、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険の三社統合が実現すれば東京海上は一八七九年の創業以来、初めて国内首位の座を譲る。全分野で三〇%以上のシェアを持つ巨大保険グループを追う立場に変わる。
 東京海上は昨年まで、保険金の支払い漏れや保険料の取りすぎ問題を踏まえ、営業の「質」を重視する姿勢を打ち出していた。だが「今年は質も量も追う」(幹部)。三社統合が実現し、ほかの大手が動かなければ、国内損保は新たな「二強」による全面戦争の様相を見せることになる。
 「新二強」の主戦場の一つが、国内事業の収益の柱となっている自動車保険。とりわけトヨタ自動車のディーラー向けの保険だ。現在は東京海上とあいおい、三井住友海上が三つどもえで激戦を繰り広げているが、統合会社のシェアは五―六割に達し、優位に立つ。しかし東京海上は「トヨタは取引先を競わせて有利な価格を引き出す文化。逆にそれ以上シェアを高めるのは難しいはず」(幹部)と読む。
 三社統合が実現したとしても、あいおいとニッセイ同和の合併会社と三井住友海上の担当者が入り乱れる営業現場では混乱が生じる可能性が高い。東京海上は機を逃さず攻勢をかける構えだ。
 一方、海外事業では英米損保の大型買収を昨年進めた東京海上に対し、統合三社は「アジアに最重点を置く」(三井住友海上の江頭敏明社長)。海外事業を成長戦略の核と位置づけ、生損保を問わずM&A(合併・買収)を検討する。経営戦略の違いは鮮明だ。
直販分野も火種
 代理店を通さずにインターネットや携帯電話を使って保険を販売する「直販」分野も、新たな火種となりそうだ。
 東京海上は二十六日、NTTグループの金融子会社、NTTファイナンスと共同で、直販損保の準備会社を設立した。
 低価格を売りにした直販は頭打ちが続く国内損保市場で数少ない成長分野。すでに三井住友海上グループは子会社損保を通じ、事業を展開している。東京海上はこれまで販売代理店に配慮して参入していなかったが、“通信のガリバー”の技術力を生かした新サービスで追撃する構えだ。
 昨年はセコムと業務提携するなど多彩な手を繰り出す東京海上も、国内大手損保とのM&Aについては「相乗効果が見込みにくい」と消極的。金融危機の先行きが見えない当面は国内外の足場固めに重点を置く方針だ。
 ただ昨年の大型買収を例に取るまでもなく、決めたら早いのが“隅流”。「隅の即断」が幕を開けた業界再々編の二度目の号砲となる可能性はある。

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