20090126 日経産業新聞

 景気後退による自動車需要減少の影で、国内二輪車販売が危機的な水準に陥っている。二〇〇八年の日本メーカーの国内出荷台数は前年比二三・七%減り、〇九年にはついに五十万台を割り込む見通しだ。「生活の足」としての意味合いが薄れ、このまま衰退への道を歩むのか。成熟した文化として根付くのか。構造転換の岐路に立つ国内二輪車の姿を追った。
最盛期の6分の1
 「バイクの販売にリーマンショックも世界的な不況も関係ない。ただ売れない」。ホンダ発祥の地で「二輪の街」とも言われる浜松市のディーラーからはこんな声が聞こえてくる。昨年の二輪車出荷台数は五十二万二千三百十五台。最盛期だった一九八二年の六分の一以下まで落ち込んだ。日本自動車工業会による〇九年の需要予測も四十九万八千台で、回復の兆しは見えない。
 「排気量五〇ccが生き残るのは無理かもしれない」――。ホンダの二輪事業本部長、大山龍寛常務の表情は晴れない。
 俗に「原チャリ」とも言われる排気量五〇cc以下の原付き一種は税制や免許制度などで優遇され、しかも低価格。消費者にとって最も身近なはずの二輪車だ。ところが、実際には原付き一種の〇八年の国内出荷台数は最盛期だった一九八二年の十分の一まで減った。
 東京都内の二輪車ディーラーは「もはや生活の足ではなくなってしまっている」と見る。かつては主婦や学生の必需品だった五〇ccスクーターも今ではその需要を都市部・地方で軽自動車や自転車に奪われてしまっているためだ。
 市場縮小はメーカーの首を絞める。ただでさえ難しい小型エンジンの開発、排ガス規制の強化、販売減による固定費の増加――。かさむコスト負担は製品価格や新車開発に跳ね返り、値上げとモデル数の減少による需要後退という悪循環に陥ってしまった。日本固有の排気量区分である五〇ccクラスが「無くなる日」が刻一刻とせまる。
 焦点になるのが一〇〇―一二五ccクラスの免許区分。「五〇ccのように四輪車の普通免許でも運転できるようになれば」(ホンダの大山常務)と日本勢の期待は大きい。実際、〇四年の法改正によって四輪車免許で一二五ccまでが乗れるようになったスペインでは、縮小していた市場規模がそれまでの二倍に回復した経緯もある。
 日本メーカーにとっても一〇〇―一二五ccの排気量帯は東南アジアを中心に世界で数千万台を生産する、最量販クラス。「開発や生産面でのコスト削減効果は計り知れない」(ヤマハ発動機の梶川隆社長)。「バイク本来の楽しみを味わえ、中大型車に乗り換える足がかりにもなる」(ヤマハ発系ディーラー)との意味もある。
 一二五ccの需要が広がれば、中大型の二輪人口も増えるはず――。そこで日本メーカーに求められるのは中大型車市場のテコ入れだ。趣味製品として日本で着実に顧客層を広げてきた輸入車勢に対し、年々厳しくなる排ガス・騒音規制によって製品ラインアップがしぼんだ感は否めない。
若者魅了が必要
 「一緒に新しい市場をつくっていきたいのに……」ビー・エム・ダブリュー(東京・千代田)の二輪車部門ディレクター、ラルフ・ライナート氏は悩ましげに話す。本国のドイツで成功した大型スポーツバイク「GS」シリーズを日本でも普及させようともくろむも「競合する製品がない」(同)のが現状だ。「都会的な感覚の製品で若者を魅了する必要がある」と指摘する。
 趣味製品としての普及を図るには、消費者に二輪車の魅力を訴える努力も欠かせない。縮む日本勢を尻目に、〇八年まで二十四年連続で国内販売を伸ばしているハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)の福森豊樹社長は「まだ顧客には楽しさが伝わりきっていない」とさえ言う。
 「スーパーカスタマー制度」。HDJは昨年、こんな社内制度を設けた。ハーレー車の中心価格帯は百万―二百万円ほどと高額で、HDJ社員でも手が出ないケースがある。このため、新制度では社員の購入時に奨励金を払うが、利用した人は必ず購入前後の手続きやディーラーとのやり取りを詳細にリポートにまとめて会社に報告しなくてはならない。
 「大事なのは顧客の目線をさらに超えること、だからスーパー(超)カスタマー(顧客)」(福森社長)。消費者の立場を肌で感じ取り、一歩進んだ製品やサービスを追求しようという考えだ。「顧客・ディーラーと一体とならなくては魅力は伝わらない」と次なる施策を着々と練る。
 この十年あまり、新興国のめざましい発展によって、世界で飛躍的な成長を遂げた日本メーカーだが、その間に国内市場は大きく後退した。需要構造の変化を変革の好機ととらえるか、衰退としておびえるか。世界をけん引する日本メーカーに決断が迫られる。

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