20090108 日本経済新聞 朝刊

 製造業派遣の見直し論が急浮上している。規制強化は雇用機会拡大に逆行しないか、見極めが必要だ。性急な規制は逆効果になりかねない。
 工場など製造現場への労働者派遣は二〇〇四年三月施行の改正労働者派遣法で解禁された。雇用が負債、設備と並ぶ「三つの過剰」と見なされ、日本のバブル経済崩壊後の企業経営でなお重しとなっていた時期だ。
 規制緩和は多様な働き方を認め、雇用のミスマッチを解消することに主眼があった。欧米では人材派遣会社の売り上げに占める製造業派遣の割合が五―七割に達するという。経営側にとって派遣は直接雇用する期間従業員に比べ、安い労務費で要員確保が迅速にできる。請負と比べても現場の工程管理がしやすい。
雇用機会を拡大
 解禁を受け、自動車や電機など製造業が緊急増産要員として派遣社員を受け入れた。厚生労働省によると、製造業で働く派遣労働者数は〇七年六月時点で前年比九二・六%増の四十六万人強に達し、雇用機会拡大に一定の役割を果たした。
 派遣労働の柔軟さは減産時の反動の大きさを伴う。同省によると今年三月までに職を失うとみられる非正規労働者は約八万五千人。業種別では製造業が九六%を占め、雇用形態別では派遣が三分の二強を占める。
 だが、製造業への派遣を禁止すれば雇用が改善するとは言い切れない。「昔も今も製造業は景気変動の影響を和らげるために非正規雇用を必要としている。規制緩和前に戻れば今度は請負や期間従業員が職を失いかねない」(八代尚宏国際基督教大教授)。企業の中には「将来の増産時に機動的に人材を集められなくなる」との懸念も出ている。コスト増を嫌って国外への生産シフトが進めば、正規労働者にも影響が及ぶ。
二極分化を懸念
 急激な雇用悪化は非正規労働者への安全網の不備を浮き彫りにした。政府は今国会に雇用保険法改正案を出し、保険適用に必要な雇用見込み期間を「一年以上」から「六カ月以上」に縮める方針だが、なお網の目からこぼれる労働者は多い。社会保険の適用拡大はもちろん、非正規労働者が低賃金から抜け出すための教育訓練など包括策が課題となる。
 経済協力開発機構(OECD)は〇八年版対日経済審査報告で「日本の正規労働者と非正規労働者の賃金格差は生産性の差をはるかに上回っている」と指摘し、「デュアリズム(二極分化)」の拡大を懸念している。
 日本経団連の御手洗冨士夫会長が雇用を守る選択肢として挙げたワークシェアリング(仕事の分かち合い)は正規労働者にとり労働時間と収入を減らす痛みを伴う。「非正規」の雇用悪化は正規労働者にとって対岸の火事ではない。
(編集委員 奥村茂三郎)



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