20081225 日本経済新聞 朝刊

 「百年に一度」とされる世界的な経済金融危機の津波に襲われた日本経済。二〇〇九年度予算政府案は「国民生活を守る」とうたい、雇用や医療、介護、年金、子育てなど、暮らしの不安を和らげることを最優先課題の一つに据えた。景気悪化に直面する個人の生活や地域を下支えし、次の一歩を踏み出すだけの「底力」を与えることができるだろうか――。(1面参照)
 年金、医療、介護などにかかる社会保障関係費は三兆円余りも増えて二十四兆八千億円を超え、一般歳出の半分弱を占めた。今年度当初予算比の伸び率は一四%と、三十年ぶりの二ケタ増。基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引き上げに必要な財源(二兆三千億円)が大部分だが、自然増(八千六百億円)を二千二百億円抑える政府方針が事実上頓挫した影響も無視できない。
 社会保障関係費のうち、来年度に国が年金に投じる予算は約十兆円で、医療は九兆円強。基礎年金国庫負担の増加分が大きく、「初めて年金予算が医療予算を上回る」(厚生労働省)という。
 日本は少子高齢化が急速に進み、人口が減る構造問題を抱えている。そこに、医療現場の崩壊や介護難民、年金記録漏れ問題など政策の不備に端を発した制度不信が広がった。景気悪化による雇用不安も追い打ちをかけ、「生活防衛」と称して予算膨張に拍車がかかる結果を招いている。
 国民の不安が薄まれば、日本経済を回復軌道に戻すうえでプラスに働くのは間違いないだろう。今回新設した約三千三百億円の重要課題推進枠でも厚労省予算に全体の約二割、六百三十九億円を配分した。同省がこの枠の財源を賄うために政策経費の削減で拠出したのは百五十七億円にすぎないので、いわば「四倍返し」の手厚い配分だ。
 それでも「国民の安心」を実現するための見取り図はぼやけている。
 その原因の一つは、政府・与党のちぐはぐな対応だ。相次ぐ経済対策で兆円単位の歳出増を打ち出しながら、社会保障費の伸びを年二千二百億円抑えるという「財政再建の旗印」に固執した。
 具体的な抑制策をまとめたのなら社会保障制度の効率化につながる。しかし、結局は道路財源や年金特別会計の「埋蔵金」で大部分を穴埋めし、実際の抑制効果は後発医薬品の利用促進による二百三十億円のみ。究極のつじつま合わせに政府・与党内の“英知”を傾けただけだ。
 将来への不安もぬぐえない。社会保障にかかる費用は膨らみ続けるのに、税制抜本改革は先送りされ続けている。財政当局は今回、特別会計の「埋蔵金」を大量に吐きだして財源を手当てしたが、「安心」を担保する安定財源とは程遠い。
 綱渡りの財源対策はいずれ破綻する。経済危機も社会保障予算の膨張を後押しするが、メリハリのない拡大は制度そのものの効率化を遅らせる。「国民の安心」がかえって遠のく危険をはらむ。


-----------------------------------------------