20081214 日本経済新聞 朝刊
自営業者らが加入する国民健康保険(国保)で景気悪化の影響もあり、保険料の滞納が目立っている。滞納が続くと病気になっても医療が受けにくくなりかねない。そんな事態を避けるためにはどうすればよいのか。サラリーマンも会社を辞めれば国保に加入する。「明日は我が身」なだけに、人ごとではない。
広島市に住む野村太郎さん(70、仮名)は二〇〇八年春、市内にある広島共立病院に緊急入院した。風邪の症状が悪化し肺炎になっていた。
悪化するまで放置したのには訳がある。野村さんは飲食店を営んでいたが、経営悪化で閉店。それからは貯金の取り崩しやアルバイトで生活していた。年金もほとんどなかった。生活が苦しいので国保保険料の滞納が続き、通常の保険証がもらえなくなった。有効期間が短い「短期保険証」を持っていた時期を経て、その時に持っていたのが「資格証明書」だ(図A参照)。
これを持って医療機関に行くと、かかった医療費の全額をいったん窓口で払う必要がある。保険証なら、現役世代は医療費の三割、七十歳以上は原則一割の負担。野村さんは「お金がない」と我慢していたわけだ。資格書で受診した人は後日、申請すれば七―九割分が戻る。ただ保険料滞納分に充当され、戻らないこともあるという。
事情を聴いた同病院相談室の医療ソーシャルワーカー、山地恭子さんはすぐ市役所に「病気なので保険証を出してほしい」と掛け合った。その結果、「短期保険証」が交付され一安心となった。
日本は全国民が公的な医療保険制度に加入する「国民皆保険」が建前。会社員や公務員といった勤め人とその扶養家族は健康保険組合や共済組合に入り、それ以外の自営業者や無職者、フリーター、会社員OBらは原則的に住まいがある自治体が運営する国民健康保険に入る。国保は「皆保険」を守る「最後のとりで」だ(表B、グラフC参照)。
健康保険や共済組合は加入者の給料から天引きで保険料を徴収する。事業主も保険料を負担。保険料収入は安定している。一方、国保では六十五歳以上の加入者から年金天引きもあるが、加入者が保険料を自ら払い込むことが多い。低所得者が多く、滞納が起こる。国保に加入しているのは全世帯の半分の二千五百万世帯ほどあるが、その二割弱で滞納が発生している(グラフD参照)。
厚生労働省は二〇〇〇年から、保険料徴収を強化するため一年以上滞納したとき、特別の事情がなければ保険証ではなく、「資格証明書」を交付することを自治体に義務付けた。また一年未満の滞納でも、通常より有効期間が短い「短期保険証」を発行する自治体もある(図A)。
ただ資格書を持つ加入者が病院にかかることを我慢し病状を悪化させたり、死に至ったりする例が報告され始めた。親の保険料滞納で資格書を交付された子供についても「無保険状態の子供」として問題視されるようになった。
このため厚労省は今秋、全国自治体を緊急調査。すると全国で資格書を受けた世帯が三十三万世帯あり、この中には中学生以下の子供が約三万三千人いることがわかった。
同省は調査結果がまとまると「子供が医療を受ける必要がある場合には、その世帯に速やかに短期保険証を発行する」よう全国に通知した。国会はさらに一歩進め、滞納世帯でも中学生以下の子供には一律に短期保険証を発行するよう法改正する見通しだ。
対応はさまざま
実は各自治体の対応はこれまでもさまざま。批判を踏まえて資格書の発行を以前から抑える自治体もあった。
広島市は今年度から、滞納者の状況を詳しく調べ、明らかに支払い余力があるのに滞納を続ける世帯にのみ資格書を出すという方針に転換。それまで年六千―七千件あった資格書が九月末時点で一件だけになった。ただし「苦しい中でも保険料を納めている人との公平性も必要」(保険年金課)として、悪質な滞納については差し押さえなど徴収強化も進めている。
今は元気な人でも、いつ医療が必要になるかわからない。公的保険は助け合いの制度でもある。払えるなら払うべきであることはいうまでもない。しかし本当に払えないときはどうすればいいのか。
関係者は「役所の担当窓口で相談しよう」と口をそろえる。まず収入状況によって保険料の減額制度がある。毎月少しずつでも納めれば、保険証や短期保険証を交付する自治体も多い。もし滞納が続いたとしても「災害や盗難、病気のとき、また、事業で大きな損失があった」などの特別な事情があるときは、資格書の交付対象にはならない。
医療ソーシャルワーカーなどの相談員を置いている病院などでも相談はできる。全国にある民間団体、社会保障推進協議会などでも相談に応じてくれる。上手に利用したい。
保険料を払えば給付が受けられる。これが保険制度の原理だが、国民健康保険はこれだけでは立ち行かない面を持つ。規定通り保険料を払うのが難しい低所得者の加入が多いためだ。また、健康保険などと違って事業主負担分もなく、保険料負担も相対的に重い。
大阪社会保障推進協議会が調べたところ、大阪府の国保加入世帯では、年間所得が二百万円未満の世帯が全体の約八割を占めた。一方、府内には四十代の両親と子供二人という世帯で総所得二百万円なら、保険料が年五十一万円という自治体もある。同協議会の寺内順子事務局長は「本当に払える保険料なのか、自治体は国保加入者の生活実態をきちんと把握すべきだ」と指摘する。
社会保障推進千葉県協議会は資格証明書を発行された世帯の所得状況を調べた。こちらも所得なしなどの無申告世帯を含め所得二百万円未満が全体の八割。「払いたくても払えないのが大半だろう」(同協議会の関智子さん)
保険料収入が不安定なことから、全国の国保には多額の公費(税金)が投入されている。企業の定年退職者も多く入っているという観点から健康保険組合など他の公的保険制度からの支援もある。それでも安定した運営には遠い。
すべての国民が必要なときにはいつでも医療を受けられる体制を整備するには、さらなる税金の投入も必要かもしれない。「最後のとりで」を守るための議論が必要だ。(編集委員 山口聡)
-----------------------------------------------
・短期海外旅行保険の比較、長期海外旅行保険の比較相談
・留学生・ワーキングホリデーの保険比較
・企業包括契約、外国人受入など
・女性向け保険サイト-乳がん、子宮筋腫等の情報も満載-
・妊婦でも加入できる医療保険。妊娠中の帝王切開にも対応!
・オリックス生命 CURE Lady(キュア・レディ)
・保険総合サイト