20081208 日本経済新聞 朝刊

 研究会の第二次報告は消費税を財源とする一階部分の基礎年金(共通年金)の充実策を盛り込んだ。年金給付額の引き上げ幅を物価や賃金の上昇率より小幅にとどめるという現行制度の給付抑制策(マクロ経済スライド)を適用せず、物価や賃金の上昇率を完全に連動させる。
 このため、二階の賦課年金給付を二割減らしても、一階部分を充実させるので一、二階を合わせた給付水準は現行制度で見込まれる額とあまり変わらない。
 一次報告で提案したように、共通年金の消費税方式化によって、保険料を払わなくとも日本に十年以上住んでいれば年金を受け取れるようにする。四十年以上住んでいる人は月六万六千円となる。それによって真の皆年金が実現する。
 消費税は買い物の額に応じ払うので、所得が低い人のなかには今の基礎年金保険料より負担が軽くなる人も出てくる。多く消費する高所得者は給付は同じでも多くの消費税を納める。
 さらに、二次報告は共通年金を一段と安定させる改革を盛り込んだ。
 年金給付の上昇を機械的に抑えるのが現行制度のマクロ経済スライド。二〇〇四年の年金改革で採り入れた。年金をもらう高齢者が増える一方で掛け金を払う若い世代が減り、年金財政のやり繰りが苦しくなっているためだ。
 その仕組みはこうだ。
 年金の給付水準はそれまで、新しく給付額を確定する人(新規裁定者)は初めの年金額を賃金上昇率に連動させ、すでに確定した人(既裁定者)の年金は物価上昇率分だけ上げてきた。 〇四年の改革後は給付額の引き上げ幅を賃金や物価の上昇率から〇・九ポイントを差し引いた水準にとどめることになった。例えばすでに受給している人は物価が二%上がっても給付額は一・一%しか高くならない。
 厚生労働省は二三年度までこのやり方を続ける方針だ。この間に予想される賃金・物価の上昇率を完全に年金給付額に反映させる場合に比べて、給付額は約一五%低くなる。
 研究会はこの給付抑制策(マクロ経済スライド)をとらず、年金額を賃金や物価の上昇率に見合って引き上げるよう提言した。月六万六千円の給付が実質的に目減りするのを防ぐのが狙いだ。ただし物価や賃金が下がったら給付額も下げるのはやむを得ない。
 この賃金・物価との完全連動方式に変えた場合、現役世代の手取り収入に対する年金給付額の割合を示す「所得代替率」はどうなるか。基礎年金の所得代替率は、マクロ経済スライドを適用すれば〇四年度の約一七%から二三年度は約一四%へ約三ポイント下がる。改革案だと二三年度でも約一七%の水準が維持される。
 その際、目減りを防ぐための財源の確保が課題。基礎年金を全額消費税で賄う共通年金に衣替えするには消費税を十二兆円、税率にして約五%分の引き上げが必要になる。消費税率は今の五%(うち地方消費税一%)から一〇%程度に上がる。
 給付抑制措置を停止すれば、二三年度時点で四兆六千億円の財源が必要になる。この部分も消費税率の一・五%程度の引き上げで賄うことを想定している。
 年金制度改革では様々な案がある。本社研究会もそれらを研究したが、世代間不公平の是正などの効果と負担を現実的に判断して、今回の案に落ち着いた。
 研究会は厚生年金などの報酬比例部分(二階部分)について、特に保険料のすべてを積み立てる完全積み立て方式に変更できないか検討した。可能なら、払った保険料は運用益がついて本人に戻る。世代間の不公平は消えるし人口構成の変化にも強い理想的な案だ。 しかしそれを導入すると現役世代の負担が大きい。 日本の年金制度は当初、完全積み立てを建前としていたが、保険料に比べ年金額を増やしすぎたことなどから、保険料をその時々の高齢者への給付に回す賦課方式に事実上変わってきた。完全積み立てに移る時、現役世代は高齢者への給付の財源負担と、自分用の積み立ての二重の負担を避けられない。
 厚生労働省の二〇〇四年財政再計算をもとに推計すると、報酬比例部分に関しては、すでに支払いを約束した額から支払い準備のため過去に積み立てた分を差し引いた二百七十兆円(積み立て不足)を何らかの形で処理する必要がある。
 仮にその全額を現世代の個人、企業が負担するとすれば、制度完成まで四十年を費やすとしても、年平均で約七兆円の負担となる。このため移行期間中に世代間不公平は改善しない。
 一方、二百七十兆円の「元本償還を想定しない国債」を発行し償還負担を将来世代に求める案もあるが、毎年数兆円の国債金利は払う必要がある。程度の違いはあれ現役世代が二重の負担をかぶるのは同じだ。
 そこで研究会は完全積み立てを将来の課題とし、部分積み立て方式を選択した。給付を二割減らせば積み立て不足は国内総生産の四割程度になる。この水準以下に抑えるよう管理していけるなら、賦課方式を続けても問題ないと考えた。
 一方、基礎年金に関する厚労省の改革案は低所得者らに利点があるものの、社会保険方式を維持するので、無年金・未納などの解消にはつながらない。
 年金財政改善のため給付水準を自動的に抑える仕組み。二〇〇四年の改革で導入した。
 新しく給付を受ける人は現役世代の賃金上昇率から、既受給者は消費者物価上昇率からそれぞれ〇・九%差し引いた分だけ給付額を引き上げる。〇・九%は現役世代の人口減少率と平均余命の延びを勘案した数字。
 スライドを適用すると二三年度までに予想される賃金・物価上昇率をすべて給付額に反映させる場合と比べ、給付額は約一五%低くなる。
 勤め人が引退後に受け取る年金の額が、現役世代の勤め人の平均手取り収入に対し、どのくらいかを表す比率。
 厚労省が想定する標準世帯(夫は四十年間勤務、妻は専業主婦)の場合、一、二階を合わせた年金の所得代替率は二〇〇四年の改革で五九・三%から約二十年かけて五〇・二%に下げることになった。マクロ経済スライドを実施するためである。
 研究会案の共通年金にはスライドを適用しないので共通年金の所得代替率は下がらない。
 年金制度の課題の一つは多様な働き方への対応の遅れだ。研究会は基礎年金(共通年金)の税方式化で浮く企業の保険料負担約三兆七千億円の一部を使いパート社員らを全員、厚生年金に加入させるべきだと考えた。
 政府はパート社員の厚生年金加入を促すため、今は「週三十時間以上」の勤務者を対象にしているのを「二十時間以上」に拡大する方針だ。その場合も月給九万八千円以上の人に限る。 その理由はこうだ。九万八千円は厚生年金保険料を計算する際の月収(標準報酬月額)の下限。これに約一五%をかけた一万四千円余りが今の厚生年金保険料だ。国民年金保険料は収入に関係なく定額(今年度一万四千四百十円)である。
 低所得の人に加入対象を広げて九万八千円の報酬月額の下限を下げると、低所得の人は国民年金保険料より低い負担で基礎年金のほか報酬比例年金も受給できるという不公平を生む。
 共通年金を二階の報酬比例部分と切り離して消費税方式にすれば、その部分は皆が公平に負担するので、こうした問題は解消する。九万八千円未満でも厚生年金に加入できるようになり、パートで働く利点が増す。
 小規模企業にはパート社員の保険料の負担がつらいという問題もある。だが共通年金を税方式にすれば厚生年金保険料は安くなるので、パート社員を加入させやすくなる面もある。
 年金制度改革に伴い負担はどうなるか?
 基礎年金(共通年金)の充実策などの効果が明確に表れてくる二〇二三年ごろの時点でみてみよう。現行制度で見込まれるのに比べて、家計と企業を合わせ約一兆八千億円、政府が想定する賃金上昇率でいまの価値に直せば一兆二千億円程度の増加となる。
 まず共通年金を税方式にする結果、企業の保険料負担が消費税に完全に置き換わるとすれば、家計負担は四兆八千億円(二三年価格、以下同)増え、企業負担は四兆八千億円減る。
 共通年金は実質的な給付額を減らしていく制度を適用しないため、消費税率をさらに一・五%程度引き上げる必要があり、家計負担は四兆六千億円増える。
 保険料の部分積み立て導入で三兆六千億円の負担増。賦課年金給付を二割減らすので、その保険料は同七兆円減る。パート社員らの厚生年金加入による保険料負担を含め、総合計で約一兆八千億円増となる。
 企業が部分積み立て分の事実上すべてを負担し、賦課年金保険料も七割をもつと仮定すれば、家計は現行制度に比べ一兆一千億円増、企業は七千億円増だ。
 基礎年金保険料の消費税方式化で企業は大幅な負担減になるとみられてきたがこのように考えれば今の制度とあまり変わらない。


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