20081208 日本経済新聞 朝刊

 日本経済新聞社の年金制度改革研究会は公的年金改革の第二次報告をまとめた。基礎年金の全額を消費税で賄い未納者や無年金の人をなくすとした第一次報告の案に加えて、厚生年金や共済年金の二階部分(報酬比例部分)の保険料を一部、加入者のために積み立てて必ず本人へ戻るようにする。若い世代が高齢世代に比べ給付面で不利な状況を改めるのが狙いだ。また基礎年金は現制度にある給付抑制策をやめ、物価や賃金の変動を完全に反映させて月六万六千円の実質的な価値を守る。世代間格差を緩和し、高齢期の安心感を高めることを目指している。(社説2面、関連特集6、7面に)
 日本経済は世界不況の波にのみ込まれ、日に日に厳しい状況に入りつつある。消費の大幅な落ち込みの背景には老後の生活を含む社会保障への不信感もあるとみられる。
10年代初め実施
 人々の生活を守ることは消費を安定させ経済成長にもつながる。年金など社会保障制度への信頼を取り戻すのが急務だ。本社研究会案は消費税増税を伴うので今すぐは無理だが、二〇一〇年代初めに実施できるよう検討を進める必要がある。
 一月七日の本紙に掲載した前報告は、基礎年金の財源のすべてを年金目的の消費税で賄う「共通年金」に衣替えし、真の国民皆年金を実現する。基礎年金の保険料を廃止し、代わりに消費税率を五%前後引き上げる。最低加入期間を今の二十五年から短縮し、国内に十年住んだ人には年金を払う――などが柱だ。
 この第一次報告は本社調査で六割程度の人から支持を得たが、厚生年金などの二階部分には手を着けていなかった。
 二次報告の骨子は二つ。第一に厚生年金の二階部分について世代間の格差を和らげる。第二に一階の共通年金を拡充して現役引退後の生活保障の役割を高める。
 厚生年金は世代間の不公平を抱えている。厚生労働省によると、夫が四十年間会社に勤め妻は専業主婦という世帯だと、現役時に払った保険料に対し生涯に受け取る年金総額の倍率は、一九四五年生まれが四・六倍だが、八五年生まれ以降の若い世代は二・三倍にとどまる。これは事業主負担を除いており、実際の倍率はその半分だ。
賦課方式に弱点
 格差が生じるのは現役世代の保険料をその時の受給世代に回すという賦課方式の運営方法などに問題があったからだ。
 過去に福祉充実の名の下、年金額を増やしたが保険料をそれに見合って引き上げなかった。その政策ミスに加え、平均寿命の延びや少子化が賦課方式の弱点を増幅した。 このため研究会は二階の保険料のうち一・五%分を自分のために積み立てる方式を提案した。賦課方式で運営している部分は、給付を現行制度より約二割削減して現役世代の保険料を軽くする。
 保険料率は積み立て分を含めて約一一・五%。現行制度で想定している一七年の最終的な保険料のうち基礎年金分を除く一三%に比べて二階の保険料は軽くなる。
 積み立て分の掛け金は企業がいったん従業員に渡し、そこから従業員が払う形にすれば加入者の安心感がより増す可能性もある。基礎年金を消費税で賄うので企業負担は年三兆七千億円浮く。そのなかから部分積み立ての原資を出せるはずだ。
 積み立て部分を合わせた報酬比例年金総額の掛け金総額に対する割合は、〇五年生まれの人で今の五割強から六割弱に高まり、世代間の格差は少し和らぐ。
 二階部分を完全な積み立て年金にすれば世代間格差は解決する。だがそこに移る時には、すでに支払いを約束した額から支払い準備(積立金)を除く約二百七十兆円を現役世代が負担する必要がある。現役世代は自分のための積み立てと二重の負担を強いられる。このため数十年に及ぶ移行期間中は世代間格差が解消しない。この方式は将来の課題だが今は難しい。
 一方、現在の年金制度は物価や賃金の上昇率から一定の率(現在〇・九%)を引いた値を給付額に反映させ、給付額の上昇を抑制する建前だ。このマクロ経済スライド制を一階の共通年金には適用せず、新しく年金を受け始める人は現役世代の賃金上昇率を、すでに受給している人は消費者物価の上昇率を給付額に全面的に反映させる。
成長促進がカギ
 この改善策によって、現行制度なら基礎年金の実質的な価値が二三年度までに約一五%下がるところ、目減りせずに済む。その財源として二三年ごろまでに消費税をさらに一・五%程度引き上げる。共通年金の消費税方式化に必要な五%引き上げと合わせ消費税率は一一・五%程度となる。二ケタ台になるので食料品などに軽減税率の導入も必要になる。
 物価や賃金が下がったときに給付額を下げるのは年金制度を持続させるためにやむを得ない。
 改革全体で年金額、特に高齢者が受け取る金額はどうなるか。二階の賦課年金は二割削減するが一階部分は現行制度より充実するので、双方を合わせた給付額は「夫婦・片稼ぎ」の標準世帯の場合、現行制度で想定される金額とほぼ同じだ。
 今後は医療、介護などに必要な財源も膨らむ。高齢化のピーク時に消費税率が一〇%台半ばになるのはやむを得ないかもしれない。健康保険料や介護保険料の引き上げも必要になる。
 消費税増税を含む年金改革は経済成長の促進が前提になる。法人課税の軽減や少子化対策の強化が重要である。
 年金給付に必要な費用をその時の現役世代が払うのが賦課方式。今の厚生年金はこれで、引退した親世代のため子供世代が保険料を払っている。親の世代が積み立てた資金では足りないからだ。少子高齢化が進むと子供世代の負担が大きくなる。
 積み立て方式は現役時から保険料を自分用に積み立てて運用する。引退しても子供世代の負担に頼らずに済む。少子高齢化が進んでも子供世代の負担は増えない。だが賦課方式から積み立て方式への移行は現役世代に大きな負担を強いるので、中間の部分的な積み立てが先進国で一つの潮流になっている。



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