20081206 日本経済新聞 朝刊
基礎年金の国庫負担割合引き上げの時期が迷走している。麻生太郎首相の発言がぶれたのが発端だが、来年四月からの引き上げに必要な二兆三千億円の財源のメドが立たない点も大きい。引き上げの時期が来年四月より遅れれば、将来の年金の給付水準が低下することになりかねない。政府の混乱は国民の年金不安に拍車をかける恐れがある。
基礎年金の国庫負担割合は三分の一強。政府は来年四月から二分の一に引き上げると公約していた。首相は軌道修正を繰り返した結果、「来年四月」という当初方針に立ち戻ったように見えるが、具体的な財源はいまだに見えない。
引き上げの時期を巡る混乱は、首相の発言の軽さという表面的な問題にとどまらない。年金制度の根幹を揺るがしかねないという本質的な問題をはらんでいる。
二〇〇四年改革に基づく現行の年金制度では、保険料の負担を段階的に引き上げ、上限で頭打ちにする。サラリーマンが加入する厚生年金の場合、保険料はいまの月収の約一五%から一八・三%に上がる。一方、給付水準には下限を設けた。現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合(所得代替率)が「五〇%を下回らない」とし、与党は「百年安心」とうたった。
その前提が国庫負担の引き上げ。年金改革法では来年度に「二分の一」になることを織り込み、税制改革で安定財源を確保するとした。国庫負担を年度当初から引き上げないと、将来の給付水準が想定よりも落ちる。
現在想定している所得代替率の下限は五〇・二%。仮に国庫負担の引き上げが一年遅れると、給付水準が〇・二ポイント低下する。年金財政の収入に二兆三千億円の穴が生じ、計画よりも多くの年金積立金を取り崩す必要があるためだ。
引き上げの遅れを半年にとどめても、一兆円超の財源が不足する。将来の税制改革で先送りした分も含めた財源を手当てしない限り、少子化や経済情勢などの想定に狂いが生じて「五〇%」を維持できなくなるリスクが高まる。
安定財源確保の手段と時期を明示し、それまでは国庫負担の引き上げを先送りするというのなら、まだ国民の理解を得やすい。だが世界的な金融危機や景気悪化を受け、消費税をはじめとする安定財源を来年度中に確保するのは「ほとんど不可能」(与謝野馨経済財政担当相)という。
有力視されているのが財政投融資特別会計などの「埋蔵金」の活用だ。ただ国民に追加負担を求めるわけではなく、一時的な対策にすぎない。
与党内では景気の悪化と次期総選挙をにらんだ財政出動圧力が強まり、「埋蔵金」を含む財源の分捕り合戦が激しくなっている。年金財源を巡る政府・与党内の調整の行方はなお不透明だが、問題の安易な先送りは批判を浴びそうだ。
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