20081204 日本経済新聞 朝刊
選挙目当て「統治」自壊
政府は三日夜の臨時閣議で、二〇〇九年度予算編成の基本方針を決定した。小泉政権で決めた「骨太方針〇六」の歳出抑制路線に沿った概算要求基準(シーリング)の大枠は表向き維持したが、麻生政権はまたしても迷走を始めている。
「党内の歳出増圧力は強いですよ。きょうの総務会はすごかった」。二日午後、自民党の保利耕輔政調会長は首相官邸で麻生太郎首相に告げた。骨太〇六の凍結とシーリングの撤廃。党の最高意思決定機関である総務会が急きょ、決めた方針に首相は「そこまでは言えないなあ」。代わりに指示したのが「機動的な対応」だった。
追加歳出の圧力
首相発言は党内にくすぶっていた構想と共振を始める。シーリングの縛りを受けない十兆円超の特別枠だ。自民党の細田博之幹事長、公明党の太田昭宏代表らが一日に会談した際にも話題になった構想である。予算編成の基本方針には「状況に応じて果断な対応を弾力的に行う」との表現も盛り込まれた。追加歳出を求める与党の圧力はむしろこれから強まる。
高い人気を期待されて発足した麻生内閣の支持率は二カ月で三一%(本社世論調査)に急落した。景気悪化が深刻になる中、財務省が敷いたレールに沿った予算編成では存在感をアピールできない――。次期衆院選をにらみ「このままでは自分も党も終わってしまうという危機感がまん延している」(自民党幹部)。
二兆円の定額給付金、道路特定財源、郵政民営化の見直し……。首相の失言や方針のブレもあって麻生政権の政策決定は混乱続き。今回は根回しなしで突然、党執行部がシーリング撤廃を首相と直談判する異常事態となった。「政権のメルトダウンが始まっている」。党内からは別の危機感が漏れる。
政治の機能不全で政策運営が停滞している例は枚挙にいとまがない。追加経済対策で検討するとした銀行等保有株式取得機構の株式買い取りは、法案の今国会提出が立ち消えになった。基礎年金の国庫負担割合を来年四月から二分の一に引き上げる財源もいまだにはっきりしない。
「先送り」横行も
より深刻なのは「百年に一度の金融危機」にかこつけた先送りや特例が横行しそうな点だ。骨太方針凍結や予算の特別枠構想が想定する期間は三年。首相が訴える「日本経済は全治三年」に便乗する動きともいえる。
景気悪化を前に一定の需要刺激策は避けられない。ところが、議論になるのは、世論に不評の定額給付金など選挙にらみの政策ばかり。実現性や効果に疑問符が付く案が浮上しては迷走する繰り返しだ。竹森俊平慶大教授は「中長期的に日本経済を強くする戦略がない」と司令塔不在の現状に警鐘を鳴らす。
「世界は今、歴史始まって以来の転換期に直面している」。一九七八年一月。前年のロンドン・サミットを受けて当時の福田赳夫首相は施政方針演説でこう強調し、石油危機の後遺症に苦しむ世界経済を日独などが引っ張る「機関車論」に応える積極財政を進めた。
〇九年は日米欧が戦後初めてそろってマイナス成長に陥りかねない。経済政策運営の難しさは当時の比ではないのに、政治に切迫感がない。金融機能強化法改正案の採決を首相との駆け引きに使った民主党の小沢一郎代表も同様だ。
足元の危機に、将来の不安に、どう応えるのか。政治の不作為が続くなら危機はむしろ増幅する。
矢沢俊樹、犬童文良、日高広太郎、恩地洋介が担当しました。
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