20081202 日本経済新聞 朝刊

 二〇〇九年度予算編成と税制改正の作業が大詰めを迎える。世界同時不況に見舞われた日本の景気下支えに効果的な税制と財政運営の道筋を示せるかの正念場だ。新たな座標軸を見いだせない税財政は日本経済の危機を深刻化させかねない。
97年の悪夢想起
 一九九七年の悪夢。日本経済の置かれた状況はアジア金融危機に山一証券、北海道拓殖銀行の経営破綻が追い打ちをかけ、マイナス成長への坂を転げ落ちた九七年冬に重なり始めた。
 橋本政権は二兆円規模の所得・住民税減税を実施する一方、財政構造改革法を優先し九八年度予算は一般歳出(当初)で一・三%減とむしろ緊縮型で編成。結局、四月には十六兆円規模の総合経済対策をまとめ補正予算案を提出した。予算編成での初動の遅れは、景気後退を九九年初まで長引かせる一因となった。
 日本経済は〇九年度も景気後退が続く可能性さえ取りざたされる。景気後退期の緊縮財政や増税はデフレ圧力を高め税収がかえって減る。まず景気対策を優先し、中長期的な財政再建路線と両立を目指す必要がある。
 とはいえ日本の政府債務は国内総生産(GDP)の一・八倍。長期債務は七百八十兆円と九七年度末の一・六倍に達した。先進国の中でも歴史的にも財政の制約が格段に大きい中で、予算編成方針は迷走気味だ。
 混乱の芽の一つは小泉改革の象徴、社会保障費を年二千二百億円抑制する方針の扱い。政府はたばこ税上げを原資に一千億円程度抑制額を圧縮する。財政規律を失わないよう方針自体は撤回しない苦肉の策だ。一一年度に収支均衡を目指す財政再建目標の達成も税収減で困難に直面する。財政再建路線を堅持するか、緊急避難の財政出動は優先するかという決断さえ先送りしたままだ。
 「これを入れてもらわなければ選挙演説もままならない」。妊婦健診無料化、子育て一時手当……。追加経済対策に盛り込んだ少子化対策の裏には古賀誠自民党選挙対策委員長らの強い要請があった。衆院解散・総選挙をにらむ与党の風圧に抗し、景気刺激効果の高い政策に財政資金を重点配分できるか。
内需どう刺激
 日本経済の回復に財政の果たす役割は大きい。日本経済研究センターの竹中平蔵特別顧問は「羽田空港を二倍に拡張し二十四時間営業すべきだ」とし、羽田をアジアのハブ(中継拠点)にするなど国家プロジェクトの必要性を提唱する。将来にかけて民間需要の呼び水となりうる公共事業を選択する必要がある。
 生産や投資の急激な調整を強いられる企業を支援し設備投資や雇用の悪化を防ぐには思い切った投資減税も欠かせない。財務総合政策研究所によると過去の金融不安下では政策減税などが投資を喚起する効果が比較的大きかった。新エネルギー開発や省エネなど日本の次なる成長を支える投資を促す政策が必要だ。
 「年末の資金繰り支援に万全を期してもらいたい」。政府は日銀に早急な対応を求めている。中小企業金融は追加対策に加え予算での支援強化が急務。株安で自己資本が急減したメガバンクがそれぞれ年度内に数兆円規模の資産圧縮に乗り出せば深刻な貸し渋り・貸しはがしの危機が迫る。
 危機対策の核となる〇九年度予算が安易なバラマキに走れば財政悪化と金利上昇の悪循環さえ招きかねない。中期的な税財政の将来像を示したうえで、有効な政策を選び優先順位を明確にした「危機管理予算」を編成しない限り景気回復に向けた戦略は見えてこない。


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