20081117 日本経済新聞 朝刊

 かわいい我が子の教育資金をどう確保するか。二千万円とも三千万円ともいわれる教育資金の総額を聞いて、途方に暮れる親も多いはずだ。学資保険は教育資金を蓄える手段として昔も今も定番だが、商品性をよく理解したうえで加入することが欠かせない。加入目的などを明確に意識しておかないと、リターンの低さを後々悔やむことにもなりかねない。
 神奈川県に住む三十歳代の夫婦は今年、待望の第一子が誕生した。「子供が生まれたらまず学資保険」と考えていた夫妻は、友人の勧めもあってソニー生命保険の学資保険に加入。毎月約一万円を支払い、子供が大学入学を控える十七年後に二百三十万円を受け取る。
 「今、払える金額」を考えて保険金額を決めたこの夫妻だが、加入後に不安に思うこともある。小学校や中学校から私立に行った場合、学費に振り向ける家計の余裕はあるか。今、節約してもっと保険金額を増やすべきではなかったのか。そもそも学資保険は教育資金をためるのに最適な選択だったのか――。
 学資保険は契約者(一般的には親)が死亡した場合、その後は保険料を払い込まなくても、設定した満期になれば、保険金を満額受け取れる金融商品。払込額や期間に応じて受取額が増減する。代表的な取扱金融機関はかんぽ生命保険だが、最近は民間の生命保険会社も手がけている。
 学資保険の商品性は、教育資金をためる貯蓄の機能と、万が一に備える保険の機能が組み合わされているのが特徴。加入の際には、このどちらを重視するかを判断することが大切だ。
 子供が生まれた時に加入し、十八年後に五百万円を受け取る例を具体的に見てみよう。
 郵便局で契約できるかんぽ生命の「新学資保険」の場合、毎月の支払額は二万三千百五十円。実は十八年間に払い込む総額は五百万四百円となり、不確定な配当金を除けば、受取額の五百万円を上回る。
 これは「保険の機能が充実している」(営業企画部の野沢聡部長)ためだ。かんぽ生命の学資保険では、被保険者である子供が死亡した場合にも、保険金額が満額支払われる。事故で子供が亡くなった場合には、保険金額の二倍が支払われる「倍額保障」もある。貯蓄より保険を重視しており、資金を増やそうと考える人には向かない商品といえる。
 一方、ソニー生命の学資保険では、毎月の支払額は二万七百円。十八年間で四百四十七万千二百円を支払って、五百万円を受け取れる。被保険者の子供が死亡しても、それまでに払い込んだ分しかお金が戻ってこないなど、かんぽ生命よりも保険の機能を絞り込み、貯蓄性を高めた。
 超低金利が今後も続くと仮定すれば、ソニー生命の学資保険は銀行などに定期預金の積み立てをするよりは有利な運用だといえる。ただ、保険という商品の特性上、積立金額を自由に変更できないことや、仮にインフレが起こった場合に価値が損なわれかねないことには注意が必要だ。
 では、こうした商品性の学資保険は教育資金の積み立てに適しているといえるだろうか。
 ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、保険商品は一度契約すると解約がしにくいという欠点を逆手に、教育資金をためるのに適していると指摘する。「預貯金では別の用途でつい引き出してしまうこともあるが、保険ならそういった誘惑に勝てる」という。また教育費という支払いの時期がはっきりしているものに対し、価格変動の大きい商品での運用は向いていないというのが畠中さんの考えだ。
 しかし、かんぽ生命の学資保険の新規加入者は年三十万件程度で、年百六十万件程度とピークだった一九九三年より大幅に減少。ソニー生命の新規加入者は年間十万件強で、両者を合わせても学資保険離れは明らかだ。教育資金の総額が莫大(ばくだい)なことや、学資保険の運用効率の悪さがささやかれたことが背景とされる。
 そうした状況を踏まえて、「学資保険は教育資金を蓄えるのに合っていない」と話すのはファイナンシャルプランナーの藤川太氏。私立に通うのはもちろん、進学に備えた準備などもあって中学、高校でも多額の教育費が必要なのが昨今の教育事情だ。十八歳満期が中心の学資保険では十分に対処できない場合が想定される。
 保険商品はお金の価値が相対的に下がるインフレに弱いうえ、教育費は消費者物価指数など統計に表れる物価よりも上昇しやすい性質を持つ。足元の金融危機で投資環境は厳しいが、国内外の債券や株式に投資する国際分散投資が王道だと藤川氏は指摘する。受取額が大きい生命保険に入っている家庭では、学資保険の死亡保障が過剰になっている可能性もある。
(石川潤)
 次回は「聞いてみました 隣の家計」を掲載します。




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