20081116 日本経済新聞 朝刊

 二〇〇八年から始まった「ふるさと納税」。文字通り「自分の出身地に税金を納める制度」と思っている人も多いが、現実の制度の仕組みはかなり違う。記者が実際に体験し、制度の実態や使い勝手を点検した。
 「この制度は誤解が多いんです」。こう話すのはふるさと納税の応援サイト「ふたくす」を運営する特定非営利活動法人「ありがとうネットワーク」理事の吉戸勝さん。
 対象は出身地に限らず、応援したい自治体ならどこでもいい。また直接自治体に税金を納めるのではなく、寄付をすることによって所得税や住民税を軽減(還付)してもらう制度だ(図A)。初年度に適用を受けるには、年内に寄付をすませる必要がある。
 内閣参事官時代に制度の創設にかかわった高橋洋一・東洋大学教授によると「市民が自分で税金の使い方を決めることで、健全な自治体間競争を促すこと」が狙いだ。
 記者は香川県高松市の出身。離れてかなりたつので、何かしたい気もする。市役所に電話すると、担当者が丁寧に寄付の方法を教えてくれた。使い道は学校の整備などに充てる「人づくり事業」など、十項目から選べる。
使い道指定で差
 しかし、お金に色はない。「当該事業の資金が足りていれば他に使われてしまうのでは」と聞くと「そういう場合は基金に繰り入れ、翌年度以降にその事業に使うよう決めています」。総務省によると、同様に条例で使い道を決めて指定できる自治体と、特に決めずに一般財源とする自治体が混在している。
 寄付の仕方は自治体で異なる。高松市は銀行や郵便局の振り込みなど何種類か方法がある。自治体によってはクレジットカードも使える。
 寄付の全額分、税金が軽減されると思っている人もいるが、これも誤解。軽減対象は寄付のうち五千円を超えた部分であり、逆に言うと最低五千円は必ず自己負担になる。手数料のようなイメージかもしれない。五千円を上回る額は寄付の額と所得によって自己負担額が変わってくる。
 計算式は総務省のサイトなどで見られるが、非常に複雑。自分で計算するのは至難の業なので、表Bに収入別の軽減額の目安を示した。住民税の特例控除の上限が「所得割」という部分の一割までと決まっているため「寄付金額が多くなると控除の上限を超える部分が大きくなるので自己負担が増える」(税理士の福田浩彦さん)。より詳しく軽減額のメドが知りたい場合は、大阪府のサイト(表Bの欄外)などで自動計算できる。
 記者は高松市に三万円を寄付した。この金額なら〇八年度の所得税と〇九年度分の住民税の合計で、“手数料”の五千円だけ引かれた二万五千円が軽減される。ただし、軽減を受けるには、一般に確定申告が不要な会社員でも申告が必要。「普及を阻むハードルの一つ」(地方自治総合研究所の菅原敏夫研究員)だ。
 ところで、どれくらいの金額が集まっているのか。総務省は「全体は未集計」という。高松市の担当者に聞くと「まだ三十数人、百万円ちょっとでしょうか」(十月下旬時点)と少し声が沈んだ。大阪府のように漫才コンビの「爆笑問題」と事務所社長だけで一千万円の寄付があり、全体で三千二百万円(五―十月)を超える自治体もあるが、多くはまだこれからのようだ。
 三万円を銀行で振り込んで一週間すると、確定申告で必要になる領収書のほか「ふるさと高松応援団員証」というカードが送られてきた。「菊池寛記念館」など十施設への入場が一定期間無料になる。
様々な特典用意
 自治体にはこうした様々な特典を用意するところがある(表C)。佐賀県では「特産品のイカで飾ったクリスマスツリーがあるのを知っていますか?」など同県にまつわる“トリビア”を印刷したトイレットペーパーも選べる。
 栃木県那須塩原市では地元を訪れた際にホテルや飲食店の割引が受けられる。「ふるさと納税を機にぜひ訪れてほしい」(企画課)という狙いで、割引は地元業者の自主的な負担。特典や使い道については各自治体のサイトや「ふたくす」(http://www.f-tax.jp/)などで分かる。
 一部で別の“恩恵”があるかもしれない。住民税が減ると、東京二十三区など国民健康保険料を住民税額を基に決める自治体では、連動して国保料が下がる可能性もある。ただ、一部の人だけ有利なことに不公平感もあり、厚生労働省と総務省が調整中だ。
 ふるさと納税には根本的な批判もある。野口悠紀雄・早稲田大学大学院教授は「地方税は居住地の地域サービスを受ける対価。住んでいない地域に税金を送る制度は全くおかしい」と指摘。加えて「本来、寄付は自己犠牲を伴う行為。税額控除を認めるのは寄付の崇高な理念を踏みにじるもの」と厳しい。そう言われると“自己負担”を気にした自分がやや恥ずかしい。
 自分で税金の使い道を決めるという魅力と、こうした批判を考え合わせて、それぞれの価値観が問われる制度かもしれない。(田村正之)
 高橋洋一・東洋大学教授の話 ふるさと納税の目的は都市と地方の財政格差の是正だと一部で誤解されているが、違う。大事なのは国民自らが納税先を選択できるという点だ。これまで国がすべて配分を決める仕組みのもと、天下り先に多く配分するなど、多くの無駄の温床になっていた。ふるさと納税の金額はわずかでも、いわば「家計が主計官」になることの始まりだ。ただ、導入時に様々な省庁の抵抗もあり、税の軽減の仕組みなどが非常に複雑になったのが残念だ。
 国民が自由意思で税金の配分をできると、自治体の首長は応援してもらうために街づくりなどで魅力的な施策を打ち出さざるを得なくなる。ふるさと納税で豪華過ぎる特典を付ける自治体もあるが、そうした行動の是非も含めて、市民が総合的に自治体を評価すればよい。

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