20081111 日本経済新聞 朝刊

金融危機反映不十分 前提に甘さも
 厚生労働省は五年ごとに見直す厚生、国民年金の予想運用利回りを、来年から現在想定している名目三・二%より高い水準とする方向で調整する。技術革新の進展などで長期的に日本経済の生産性が高まり、年金運用にも好影響を与えるとみているためだ。ただ足元の金融混乱の影響は十分に織り込んでおらず、予想利回りを長期間にわたって下回れば給付水準の維持が難しくなる可能性もある。年金制度の前提の甘さに批判が出そうだ。
 今後百年程度の長期的な財政の安定性を確認する「財政検証」の中で前提となる利回りを見直す。二〇〇四年の年金制度改革で原則五年に一度の実施が定められ、次回は来年二月をメドとしている。前提となる経済条件は、経済学者らで構成する「経済前提専門委員会(委員長・米沢康博早大大学院教授)」が検討している。
生産性が向上
 同委は十二日、利回りや物価などの「想定範囲」を社会保障審議会年金部会に示す。内閣府の分析などを踏まえ、例えば、技術革新などによる「全要素生産性」の上昇率は基準ケースで五年前の〇・七%から一・〇%に上がるとみている。分散投資効果も加味して示す予想利回りの幅は最低でも現状の前提である三・二%を上回る公算だ。
 現在、年金積立金管理運用独立行政法人が市場運用しているのは、約百五十兆円の年金積立金のうち約九十兆円。その平均利回りは〇三―〇七年度で五%台後半。しかし〇七年度は世界的な株安が直撃し、運用損失が過去最大の五兆八千億円に膨らんだ。
水準下回る懸念
 現行の年金制度は厚生、国民年金の保険料を上限まで段階的に引き上げる一方、給付水準は自動的に抑えるが、積立金を取り崩して現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合(所得代替率)は将来も五〇%を下回らないと約束した。この前提の一つが三・二%の運用利回りで、与党は〇四年年金改革の際に「百年安心」とうたった。
 高い利回りを前提に財政検証すれば、計算上は将来の給付水準を確保しやすい。一方で、長期間にわたって利回りが予想を下回れば「百年安心」の根拠としている「給付水準五〇%以上」の達成が難しくなる。
 経済専門委では「現下の金融危機の混乱を脱した後、再び安定的な成長軌道に復帰することを想定」しており、最近の金融市場の混乱を織り込んでいるとは言い難い。さらに実際の長期金利は一%台半ばで、現在の国内債券中心の運用では三・二%の実現さえも難しいとの指摘がある。甘い想定は年金制度への不信を一段と深めかねない。
 厚労省は来年一月に政府が決める「日本経済の進路と戦略」を踏まえ、財政検証の前提となる予想利回りなどの数値を最終的に決める。これを目標として年金積立金独法は翌年度からの運用資産の構成割合を決める。高い利回りを想定すれば外国株式などの比率を高める必要があり、その分、運用リスクは高まる。「安全かつ効率的」な年金運用への道は険しい。


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