20081109 日本経済新聞 朝刊

 生命保険会社が破綻すると保険金はどうなるのでしょう。また投資信託で運用し成績次第で将来の年金の額が変わる変額年金保険は、投信と保険とどちらの保護の仕組みが使われるのでしょう。教授に聞いてみました。
 教授 二〇〇八年十月の大和生命保険の破綻では、生命保険の販売窓口などに「自分の保険は大丈夫か」という問い合わせが相次ぎました。ただ同社の破綻には過度にリスクが高い資産運用など特殊な要因があります。格付投資情報センター(R&I)チーフアナリストの植村信保さんは「生保が相次いで破綻した〇〇年前後と違い、ほかの生保が直ちに危ないということはない」とみています。
 夫 でももし破綻したら? 前にもサンデーニッケイで解説があったけど、もう一度じっくり聞きたいです。
 教授 生命保険には払ったお金が全額保護される仕組みはありません。生命保険はそもそも、みんなが出し合ったお金を困った人が使う仕組みなので、払ったお金は自分のものではなくなるのです。
 生命保険会社の破綻で守られるのは保険金の支払い原資として保険会社がその人の保険ごとに積み上げていく「責任準備金」の額です。生命保険契約者保護機構が責任準備金の最低九割を補償します。責任準備金はだいたい、その時点で解約したら戻ってくる「解約返戻金」と同じくらいの額で、解約返戻金は保険会社に聞けば教えてくれます。
 妻 じゃ、破綻したらすぐ解約すれば、解約返戻金の最低九割が戻るのね。
 教授 残念ながら破綻後しばらくは解約ができません。再出発のための更生計画が認可されてからも、数年間の解約は解約返戻金が大きく減らされる恐れがあります(図A)。「みんなが解約して契約件数が極端に減ると、保険そのものが安定して継続できないため」(生命保険契約者保護機構)です。
 夫 逆に保険契約を続ければ保険金は満額もらえるの?
 教授 そうは言い切れません。保険会社は大まかに言うと責任準備金を運用で増やして保険金を用立てますが、破綻時の責任準備金が最大一割減るうえ、その後の運用利回りにあたる予定利率も引き下げられる恐れがあるのです。利回りが下がれば、将来受け取る金額も目減りします。
 特に貯蓄性が売りの終身保険や養老保険は利回りの影響が大きく、目減りの恐れも拡大します。一方、基本的に掛け捨てである定期保険は影響が少ないのです。例えば〇〇年の千代田生命の破綻時は、終身保険で保険金がおよそ半分に減りましたが、定期保険は削減されませんでした(三十歳男性、加入後五年で破綻した場合の試算)。
 妻 投信で運用する変額年金保険は? 投信は全額保護されるって先週聞きました。
 教授 変額年金保険も生命保険なので、保護の仕組みは生命保険の扱いになります。つまり責任準備金の一割相当は減る恐れがあります。
 夫 変額年金保険の多くは年金原資などに最低保証が付いているから、最低保証額の九割が補償対象ですよね。
 教授 いいえ。変額年金保険で責任準備金にあたるのは、年金や死亡保険金の原資となる運用残高(B下図の太い線)で、最低保証額ではありません。一般に保険会社が破綻する恐れが大きいのは、株価急落などで市場が混乱するときですから運用残高は最低保証額を下回りそう。そこからさらに一割は目減りする恐れがあるのです。
 夫 でも破綻しない場合は、最低保証が付いていれば株価急落でも安心。
 教授 そうとも限りません。例えば〇八年十月、株価急落でハートフォード生命の変額年金保険が一部、運用停止になりました。「資産残高が契約時の八〇%以下に減ったら運用が終了する」という条件が付いていたためです。
 年金として長い期間をかけて払い戻しを受ける形なら元本を全額戻す決まりですが、一時金で受け取ると二割目減りします。これは特殊な例ですが運用リスクもあります。
 変額年金保険を販売する生保の破綻事例はまだありませんが、投信と同じつもりで買うと、万一の時にがっかりしそうですね。「投資商品である投信と生命保険である変額年金保険の違いを理解して購入してほしい」と、変額年金保険大手は口をそろえます。
 妻 つまり生命保険の年金で老後の生活費を補おうとすると、保険会社と運命をともにすることになるのね。
 教授 それが預金や投信と保険との大きな違いです。保険会社の経営状況をよく見なければなりません。
 夫 僕には無理……。
 教授 確かに難しいですね。植村さんは「個人が使える代表的な指標は格付け会社が経営の健全度を示す格付けとソルベンシー・マージン比率」と指摘します。各社のディスクロージャー資料や会社案内に必ず書いてあります。
 夫 そろばん?
 娘 わざと言ってる?
 教授 ソルベンシー・マージン比率。ざっくり言うと、株価暴落など想定外の事態に備える内部留保などのお金が、発生する可能性のある損失額の何倍あるか、を示す数字です。二〇〇%以上が一応の基準です。
 妻 それを見ればいいの?
 教授 でも大和生命も破綻前の〇八年三月時点は五五五%あり、個別の会社の単年度の数字だけではわかりにくいのです。「大切なのは過去の実績や他社との比較」(植村さん)。例えば大和生命は〇七年三月末(八三六%)に比べ〇八年は大きく下落。この時点で同業他社は軒並み一〇〇〇%超でした(表C)。
 植村さんは「こうした急な変化や、他社より極端に低くないか、などがチェックポイント」と助言します。格付け(AAAが最上級です)もR&Iのサイト(http://www.r-i.co.jp)などで見られるので、同様に他社と比較しましょう。(大賀智子)


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