20081028 日本経済新聞 地方経済面

 二十七日に日経平均株価が二〇〇三年四月に付けたバブル崩壊後の最安値を更新した。主要な経済指標を五年前と比べると、現在の中部経済の実力は当時よりなお堅固だが、先行きは不透明だ。今後、先行指標といわれる株価を追いかけるように、経済が悪化するとの懸念が地元の経済関係者の間で強まっている。
 〇三年は衆院選で自民党が勝利し、第二次小泉内閣が発足。経営難に直面したりそなホールディングスへの公的資金注入決定をきっかけに金融不安が解消に向かった。中部では愛知万博(愛・地球博)や中部国際空港開港を〇五年に控え、経済が徐々に活気づいていた時期だ。トヨタ自動車はハイブリッド車のヒットなどで販売台数を初めて六百万台に乗せた。
 企業の生産活動の活発さを示す鉱工業生産指数をみると、現在の水準は〇三年当時を二割程度上回っている。トヨタ単体の〇八年の世界販売台数の見通しは八百三十万台程度。金融危機のあおりで先進国で販売が低迷しているが、〇三年との比較では約四割増となる。
 こうした実体経済の実力からみて、最近の株式相場は「下げすぎ」との見方も出ている。だが今後の経済情勢について慎重な声も少なくない。
 愛知県の商業地の地価平均は一平方メートル当たり三十二万円とわずか五年で約十万円上昇した。しかし投資資金の流入による地価上昇はピークを過ぎたとみられ、日本不動産鑑定協会の副会長で、基準地価の取りまとめに携わっている小川隆文氏は「当面の地価は下落基調となる」と警戒する。
 中部の地方銀行九行の不良債権比率は、〇三年三月期で平均六・一一%だった。その後、いざなぎ景気を超える戦後最長の景気拡大が続き、直近の〇八年三月期では三%台まで低下している。だが中部景気の減速とともに、比率は再び上昇する気配がみられる。
 その背景にあるのが企業倒産の増加だ。今年一―六月は五百二十三件で〇三年当時を下回っているが、前年同期に比べると増えている。
 東京商工リサーチ名古屋支社は「以前は原材料高や個人消費低迷による倒産が目立ったが、最近は円高が加わった」と分析。
 業種別ではこれまで建設・不動産やサービス業の倒産比率が高かったが、「来年以降は製造業にも広がりそう」(情報部)と予測する。
専門家の見方
雇用・消費影響 長引く恐れも
 水谷研治氏(中京大名誉教授) 実体経済はこれから株価以上に悪くなるのではないか。中部地方の経済が好調だったのは、米国の消費に支えられ輸出が伸びたからだ。だが住宅ローン問題でその構図は一変した。
 今後、製造業が衰え膨大な貿易赤字を抱える米経済の実態が意識され、ドルは一段と売られるだろう。円高で経済環境はさらに厳しくなる。財務が堅実な中部企業も、今後は売り上げが減り、利益縮小を余儀なくされよう。雇用や消費への悪影響は避けられない。景気の厳しい状況は長期化する恐れがある。
株空売り規制で市場に平静さも
 江口忍氏(共立総合研究所主席研究員) 株式相場は理由なく下げすぎだと感じる。バブル経済崩壊後に比べ、雇用や所得の水準は悪化していない。政府が乗り出そうとしている株の空売り規制強化が効き、市場は今後、平静さを取り戻すとみている。
 一時的には中部への影響は大きい。トヨタが生産を一割落とすと愛知県の県内総生産を三%押し下げるとの試算もある。だが企業の技術力、国際競争力は高い。内部留保が厚く金融不安があっても研究開発投資を継続できる。長い目で見て悲観する必要はないだろう。





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