20081026 日本経済新聞 朝刊
埼玉医大病院(埼玉県毛呂山町)へ入院する場合、極めて厳しい院内感染検査がある。「(抗生物質が効かない)バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)発生病棟の入院歴があるかどうか」「九十日以内に入院歴があるかどうか」「透析中かどうか」――。入院後の検査基準を含めると九項目にも及ぶ異例の厳格さだ。
すべて病院持ち
同病院は二〇〇七年、二度にわたってVREの院内感染が発生した。「集団発生を起こした病院として手を抜くことはできない」と院長の片山茂裕(61)。一件約四百円の検査は千六百件を超え、費用はすべて病院負担。しかも検査機関に詳細な遺伝子検査を委託すると一件二万円に跳ね上がる。衛生的なはずの病院で今、院内感染との激烈な闘いが続いている。
「院内感染対策はカネがかかる」は対策に消極的な医療機関の逃げ口上だ。しかし自治医大准教授の森澤雄司(42)らの試算ではまったく逆の結果が出た。
ベッド数が千床規模の病院でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の院内感染が発生した場合、患者の在院日数は六十六日延び、追加医療費は一人二百三十万円かかる。集団発生が起きれば、予防対策をはるかに超える負担と医療費の支出が待っている。
院内感染対策で全国をリードするNTT東日本関東病院(東京・品川)は八年前、手術に伴う感染対策を厳密な調査で見直した。ブラシによる手洗いからアルコール消毒に変更したほか、病室と手術室の間の患者のベッド載せ替えや、入室時の履物交換を廃止した。その結果、大腸がん患者一人当たりの感染率を一割減らしたうえ、対策費を半減させた。「現場には科学的根拠のない旧来の習慣が数多く残っている」と手術部長の針原康(53)は話す。
「今の状況が続けば、二十年後には有効な抗菌剤が大幅に減る可能性もある」。抗菌薬使用の実態調査などに携わる医師、中浜力(54)は国内の過剰使用を警告する。一九九〇年代から世界的に抗菌薬の新規開発は滞っており、既存薬を長く使い続けることが不可欠。ところが不安や習慣から「抗菌薬が効かないウイルス性の風邪にまで使うケースも少なくない」と中浜は憂う。
限られた“資源”の有効利用のため、米国の多くの病院では一般の医師が使える抗菌薬は限定され、それ以外の抗菌薬を使うには専門医の許可が必要。さらに専門薬剤師が不適切な利用がないかチェックする。
日本はその専門家も不足する。神戸大教授の岩田健太郎(37)は「日本では抗菌薬の処方を熟知する専門家が圧倒的に少ない」と指摘する。感染症専門医六千五百人の米国に対し、日本は学会認定の専門医は九百人。しかも実践研修が始まったのは〇七年からで、三年の研修を終えた医師はまだいない。
病院レベルにとどまらない。「日本と韓国、香港、台湾のMRSAは共通の遺伝子を持つ」。九月、韓国の成均館大教授、宋在〓らの論文が米科学アカデミー紀要に載った。研究目的だった「微生物の種の起源調査」とは別に、図らずも広範にわたる耐性菌の脅威が明らかになった。
試される地域力
宮城県を中心にした「東北感染制御ネットワーク」代表を務める東北大教授、賀来満夫(54)も地域レベルでの重要性を指摘する。九九年に約二十病院でスタートした連携は現在、五百近い施設が参加する。講習会や地域版のマニュアル作りなどの活動を積み重ね、参加施設で院内感染が減少する成果も出ている。
ゴールの見えない院内感染対策は、今後起こりうる新型インフルエンザなど新興感染症対策との共通点も多い。賀来らが作成したマニュアルの中にも、新興感染症が大流行した際の対応をまとめたDVDがある。「新型インフルエンザが流行したら、外部から支援は来ない。大流行を防げるかどうか地域力が試される」
意識が低い医療機関が一つでもあれば、制御は難しい。一度発生すれば記録的な損害を被る「災害対策」規模の取り組みまで必要なのかもしれない。=敬称略(「蘇れ医療」取材班)
次回は社会面に掲載します
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