20080927 日本経済新聞 地方経済面

 個人の運用成績で受取額が変動する確定拠出年金制度(日本版401k)を導入する動きが北関東の中小企業でも徐々に広がってきた。厚生年金基金と並び中小企業の多くが利用する税制適格退職年金制度(適格年金)の二〇一二年の廃止を前に、制度の移行が始まっているためだ。需要拡大をにらみ、北関東の地銀でも年金担当者を増員するなど対応に力を入れ始めている。
 「適格年金の廃止間際になってバタバタしてもしょうがない。退職金や給料規定の見直しを進めた際に、制度移行の良い機会だと思った」。日用雑貨の卸業務を手掛ける菊屋(群馬県高崎市)の土屋鐵雄常務は〇五年に確定拠出年金制度を導入した経緯を語る。
 菊屋は群馬県内の企業としてはかなり早く同制度を導入したが「最初から従業員の間で制度に関する理解や資産運用への関心が高かったわけではない」(土屋常務)。
 確定拠出年金について解説した新聞記事を従業員に見せて回ったり、金融機関が催した投資に関する説明会をビデオカメラで撮影。希望する従業員にテープを配るなど工夫して、理解を深めてもらうよう努めた。
 導入から三年以上が経過した今は「関心が徐々に高まってきており、パソコンで運用状況をチェックする人も増えてきた」(同)という。
 同社の確定拠出年金制度の運営管理業務を受託したのは群馬銀行と東京海上日動火災保険。群馬銀によれば同制度の運営受託社数は八月末で三十三社。導入が内定している社数を含めると九十五社にのぼる。
 受託社数は年々増加しており、群馬銀の堀江信之部長は「来年あたりがピークになるだろう」と読む。適格年金の廃止は二〇一二年だが、確定拠出年金への移行手続きは年金規約の改正や労使間の協議、従業員への制度説明、投資教育など多岐にわたり平均半年から一年程度の期間が必要になるためだ。
 確定拠出年金制度の運営受託は、それ自体が大きく収益に貢献するものではない。ただ「企業や従業員との接点を増やし将来的な資金調達や資産運用の依頼につながる期待がある」(群馬銀行堀江信之部長)
 景気が後退局面を迎え、企業の資金需要が停滞。金融市場の混乱で頼みの投資信託販売が低迷する地銀にとって、格好のビジネスチャンスとなっている。群馬銀では今年二月、営業の強化と投資教育などアフターフォローの充実に向けて担当者を三人から六人に倍増した。
 内定を含め百十二社から運営を受託している常陽銀行も、従業員向けの投資教育に力を入れている。投資の基本知識から経済環境、確定拠出年金の制度変更などを幅広く講義。年に一回程度担当職員を企業に派遣するほか、企業側から要請があれば随時職員を派遣する体制を整えているという。
 各地銀、生損保とも営業に力を入れているが、一段の普及には課題もある。
 確定拠出年金制度へ移行する場合は、適格年金など既存制度の積立不足を解消する必要がある。解消には(1)不足金を一括で償却(2)数年間かけて償却(3)不足金を一時凍結し退職時に一時金として支給(4)給付額を減額することで実質的に不足を解消――といった方法がある。
 適格年金の利用企業は今年三月末で約三万三千社。積立不足に陥っている企業は多いとみられ、不足解消にはいずれの方法を選択したとしても将来的な財務や事務負担は大きい。菊屋が確定拠出年金制度を早期に導入できたのは、適格年金の予定利率を適宜見直し、積立不足に陥ることがなかったためだ。
 米国の金融危機などの影響で国内外の市場環境が悪化するなか、既存の年金制度による積立不足は今後さらに膨らむ可能性が高い。経営者にとって年金制度への早期の対応が迫られている。(前橋支局 中村正毅)
 ▼確定拠出年金制度(日本版401k) 二〇〇一年十月施行の確定拠出年金法によって解禁された。企業型年金と個人型年金がある。企業型は企業が毎月一定の掛け金を拠出し従業員が運用する。従業員は離転職時に運用している年金資産を移転することができ、企業は年金の運用リスクを負わなくて済む利点がある。中小企業が加入する税制適格退職年金制度が二〇一二年三月末に廃止になるため、確定拠出年金制度に移行する企業が徐々に増加している。米国では内国歳入法401(k)条項に基づく年金制度として「401kプラン」と呼ばれている。
【図・写真】確定拠出年金は従業員向けの投資教育などが重要に(群馬県高崎市)


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