20081002 日本経済新聞 夕刊
自動車を多人数で共同利用するカーシェアリングが広がり始めた。ガソリン高や環境への意識の高まりから、企業サービスを活用したり、集合住宅の住民のマイカーを利用したり。家計へのメリットを実感する人は多いようだ。カーシェアで生活はどう変わるのか。
「月十万円の車関係の出費が三、四万円に。こんなに負担が軽いとは」。東京の会社員、今宿泰助さん(35)は、二〇〇七年から利用し始めたカーシェアに満足している。マイカーを手放したのは駐車場代などがかさんだため。今は子どもの送迎など必要に応じカーシェアを使う。メリットは維持費だけではない。
「家族で移動する時に駅まで歩き地下鉄で行くより、二、三キロならタクシーの方が割安、などと考えるようになった」今宿さん。交通手段すべてのコストを意識し、生活が効率的になったという。
ガソリン高などで車の維持費負担が増す中、カーシェアが静かに広がり始めた。交通エコロジー・モビリティ財団(東京・千代田)によると、カーシェアの拠点は〇八年一月時点で全国二百九十八カ所と、前の年に比べ二・三倍に増えた。
コストの魅力が大きい。大手のオリックス自動車の場合、カーシェアの初期費用は六千七百三十円。毎月の基本使用料が二千九百八十円のプランなら、利用時間料金(十五分百六十円)と走行距離料金(一キロ十九円)を、基本使用料に加えて支払うだけ。ガソリン代や保険料は料金に含まれる。同社によると、送迎や買い物などに月四回、六キロ、三時間使った場合、月の総額は一万一千円程度。車の購入費用を考えれば、所有するよりはるかに割安だ。
いつでも好きな時に好きなところに行ける。マイカーは生活の豊かさを象徴するモノの一つだった。しかしコストや環境への配慮から「車は必要時だけ使えれば十分」という認識が広がっているようだ。
東京都東村山市の原由枝さん(36)もその一人。〇八年三月に、最近増えているカーシェアを備えた新築マンションに転居。自家用車を売却し、子の通園や通院にカーシェアの車を使う。月の費用は六千―一万円弱。「車を持たずに生活できるかなとも思ったが、以前より無駄がない」と話す。
実際、カーシェアで最も変わるのは利用者の生活姿勢という。「とりあえず車を使うというわけにはいかなくなるため、目的地に早く安く着くにはどうするか、合理的に行動するようになる」と話すのは交通計画が専門の東京工業大学大学院の藤井聡教授。維持費だけでなく、家計全体のスリム化につながるとみる。
効果はそれだけではない。「環境によくない車は減らしたい。コミュニティーの結束にもカーシェアが役立つと考えた」。コーポラティブハウス「エコヴィレッジ鶴川 きのかの家」(東京都町田市)の住民、中林由行さん(65)らは入居後、〇七年四月から住民の車でカーシェアを始めた。全二十九世帯のうち六世帯が参加。近々さらに一世帯が加わる。
インターネットのカレンダーで予約を管理。会計や清掃、メンテナンスなども住民で分担し経費を抑える。保険料やガソリン代は利用実態に応じて負担し、利用時間と走行距離で課金するのは企業と同じだ。利用時間のかち合わせなどもなく運営は順調。中林さんの負担は年十九万円と、保有当時に比べ半減した。
「将来、住民の子が成長したら、車を手放しカーシェアを利用する人はさらに増えるだろう。でも二十世帯ぐらいなら二、三台で足りるはず」と中林さん。その上で「住民が高齢化したら多人数で乗れる大型車など、状況に応じて車を選ぶこともできる」と、コミュニティーの将来を支えるインフラとして夢を描く。
もちろん、すぐに軌道にのるとは限らない。東京都荒川区のあるマンション群は、〇七年十一月から五台分の駐車場をカーシェア事業者に貸した。登録者は六月末で三十人だが、利用しているのはごく一部にとどまる。それでも管理組合理事長の高田忠則さん(53)は「いずれ口コミで子どもの送迎や緊急時のセカンドカーとして需要が広がるはず」と長期的にみる。駐車場の賃料をマンションの修繕積立金にしていることも、住民にはメリットだ。
カーシェアは「車を減らし、渋滞や温暖化などの環境問題を解決する有力手段」と位置づけられる。海外では資金援助や駐車場の優遇など、行政が後押しする例も多い。だが、マイカーを持つ人が、いきなり車を持たない生活に切り替えるのは簡単ではない。
「車を手放してもカーシェアの車を利用しながら経費も減らせると実感できれば、もっと多くの人が車を持たない生活を考えるようになるだろう」(藤井教授)。カーシェアの静かな広がりは、そのよい機会となり始めている。
カーシェアを公的に後押しする動きも出始めた。東京都荒川区は区民のカーシェア利用を促すため、七月から助成金を導入した。企業のカーシェアサービス入会時に払う費用のうち、五千円を助成する。自治体がカーシェアに助成金を出す例は初めてという。
自治体の取り組みについて、東工大の藤井教授は「CO2削減や渋滞緩和、歩く機会の増加で住民の健康増進策にもなる」と評価する。
もっともカーシェアの利便性が増せば、車の利用者が増え、結果的にCO2の排出量を増やすのではと危惧する声もある。
その点について、交通エコロジー・モビリティ財団は「車を持たない人やセカンドカーとして利用する人のカーシェアでのCO2排出量より、マイカーを処分して利用する人の排出量の減少分の方が大きい、との欧州での調査がある」としている。
ご意見、情報をお寄せください。〒100-8065(住所不要)日本経済新聞生活情報部、FAX03-5255-2682、電子メールseikatsu@nex.nikkei.co.jp
【図・写真】▼2台の車をコーポラティブハウスの仲 間が協力し利用する(東京都町田市)
自動車を多人数で共同利用するカーシェアリングが広がり始めた。ガソリン高や環境への意識の高まりから、企業サービスを活用したり、集合住宅の住民のマイカーを利用したり。家計へのメリットを実感する人は多いようだ。カーシェアで生活はどう変わるのか。
「月十万円の車関係の出費が三、四万円に。こんなに負担が軽いとは」。東京の会社員、今宿泰助さん(35)は、二〇〇七年から利用し始めたカーシェアに満足している。マイカーを手放したのは駐車場代などがかさんだため。今は子どもの送迎など必要に応じカーシェアを使う。メリットは維持費だけではない。
「家族で移動する時に駅まで歩き地下鉄で行くより、二、三キロならタクシーの方が割安、などと考えるようになった」今宿さん。交通手段すべてのコストを意識し、生活が効率的になったという。
ガソリン高などで車の維持費負担が増す中、カーシェアが静かに広がり始めた。交通エコロジー・モビリティ財団(東京・千代田)によると、カーシェアの拠点は〇八年一月時点で全国二百九十八カ所と、前の年に比べ二・三倍に増えた。
コストの魅力が大きい。大手のオリックス自動車の場合、カーシェアの初期費用は六千七百三十円。毎月の基本使用料が二千九百八十円のプランなら、利用時間料金(十五分百六十円)と走行距離料金(一キロ十九円)を、基本使用料に加えて支払うだけ。ガソリン代や保険料は料金に含まれる。同社によると、送迎や買い物などに月四回、六キロ、三時間使った場合、月の総額は一万一千円程度。車の購入費用を考えれば、所有するよりはるかに割安だ。
いつでも好きな時に好きなところに行ける。マイカーは生活の豊かさを象徴するモノの一つだった。しかしコストや環境への配慮から「車は必要時だけ使えれば十分」という認識が広がっているようだ。
東京都東村山市の原由枝さん(36)もその一人。〇八年三月に、最近増えているカーシェアを備えた新築マンションに転居。自家用車を売却し、子の通園や通院にカーシェアの車を使う。月の費用は六千―一万円弱。「車を持たずに生活できるかなとも思ったが、以前より無駄がない」と話す。
実際、カーシェアで最も変わるのは利用者の生活姿勢という。「とりあえず車を使うというわけにはいかなくなるため、目的地に早く安く着くにはどうするか、合理的に行動するようになる」と話すのは交通計画が専門の東京工業大学大学院の藤井聡教授。維持費だけでなく、家計全体のスリム化につながるとみる。
効果はそれだけではない。「環境によくない車は減らしたい。コミュニティーの結束にもカーシェアが役立つと考えた」。コーポラティブハウス「エコヴィレッジ鶴川 きのかの家」(東京都町田市)の住民、中林由行さん(65)らは入居後、〇七年四月から住民の車でカーシェアを始めた。全二十九世帯のうち六世帯が参加。近々さらに一世帯が加わる。
インターネットのカレンダーで予約を管理。会計や清掃、メンテナンスなども住民で分担し経費を抑える。保険料やガソリン代は利用実態に応じて負担し、利用時間と走行距離で課金するのは企業と同じだ。利用時間のかち合わせなどもなく運営は順調。中林さんの負担は年十九万円と、保有当時に比べ半減した。
「将来、住民の子が成長したら、車を手放しカーシェアを利用する人はさらに増えるだろう。でも二十世帯ぐらいなら二、三台で足りるはず」と中林さん。その上で「住民が高齢化したら多人数で乗れる大型車など、状況に応じて車を選ぶこともできる」と、コミュニティーの将来を支えるインフラとして夢を描く。
もちろん、すぐに軌道にのるとは限らない。東京都荒川区のあるマンション群は、〇七年十一月から五台分の駐車場をカーシェア事業者に貸した。登録者は六月末で三十人だが、利用しているのはごく一部にとどまる。それでも管理組合理事長の高田忠則さん(53)は「いずれ口コミで子どもの送迎や緊急時のセカンドカーとして需要が広がるはず」と長期的にみる。駐車場の賃料をマンションの修繕積立金にしていることも、住民にはメリットだ。
カーシェアは「車を減らし、渋滞や温暖化などの環境問題を解決する有力手段」と位置づけられる。海外では資金援助や駐車場の優遇など、行政が後押しする例も多い。だが、マイカーを持つ人が、いきなり車を持たない生活に切り替えるのは簡単ではない。
「車を手放してもカーシェアの車を利用しながら経費も減らせると実感できれば、もっと多くの人が車を持たない生活を考えるようになるだろう」(藤井教授)。カーシェアの静かな広がりは、そのよい機会となり始めている。
カーシェアを公的に後押しする動きも出始めた。東京都荒川区は区民のカーシェア利用を促すため、七月から助成金を導入した。企業のカーシェアサービス入会時に払う費用のうち、五千円を助成する。自治体がカーシェアに助成金を出す例は初めてという。
自治体の取り組みについて、東工大の藤井教授は「CO2削減や渋滞緩和、歩く機会の増加で住民の健康増進策にもなる」と評価する。
もっともカーシェアの利便性が増せば、車の利用者が増え、結果的にCO2の排出量を増やすのではと危惧する声もある。
その点について、交通エコロジー・モビリティ財団は「車を持たない人やセカンドカーとして利用する人のカーシェアでのCO2排出量より、マイカーを処分して利用する人の排出量の減少分の方が大きい、との欧州での調査がある」としている。
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【図・写真】▼2台の車をコーポラティブハウスの仲 間が協力し利用する(東京都町田市)
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