20081007 日本経済新聞 夕刊

 身長一七〇センチメートルだと体重が一〇〇キログラムを超すほどの極度の肥満の人が増えている。高血圧や心臓病の元凶となるが、運動もままならず、なかなか解消するのは難しい。重症肥満を深刻な病気と位置づけ、胃の手術で克服しようとする試みに注目が集まる。
 千葉県在住の福本恵子さん(仮名、37)は、十代に卵巣の病気をしてから太り始め、ストレスなどで食欲が抑えられない。身長一五七センチメートルなのに体重は一二七キログラム。糖尿病を治療するなかで、内科医の勧めもあり、八月に手術を受けた。「最初抵抗はあったが、このまま放っておくと糖尿病の合併症がひどくなると怖くなり決断した」という。
 肥満解消手術には主に二種類ある。胃を手術で小さくして腸とつなげる「胃バイパス術」と、胃の上部をシリコン製のバンドで縛る「胃バンディング術」だ。手術後は少ない食事量で満腹感が得られるなどの効果が期待できる。個人差もあるが体重は数年で三―五割も減少するという。
 米国では一九五三年にスタート、すでに二十万人以上が治療を受けた。国内でも一九八二年に千葉大学が初めて実施、鎌ケ谷総合病院(千葉県鎌ケ谷市)や四谷メディカルキューブ(東京・千代田)、大分大学などが手がける。岩手医科大学も六月から始めた。健康保険が利かない自由診療のため費用は術式や施設によって異なり、百五十万―二百五十万円かかる。
 肥満解消手術を受けた茨城県在住の大原紀子さん(仮名、57)の場合、「ご飯の量は茶わん半分で満腹になるなど、食事量が減った」という。身長一六四センチメートルで手術前は百八キログラムあった体重が七四キログラムに減少した。「脂質異常症や脂肪肝、すい炎、腰痛、黄疸(おうだん)などがうそのように消え、外出も楽しくなった」と話す。
 女性を中心に痩身(そうしん)願望は強いが、お金を払えば誰もが受けられるわけではない。日本肥満症治療学会がガイドラインを策定中だが、基本的には、肥満度の目安で体重(キロ)を身長(メートル)で二回割って算出するBMI値が三五以上か、三二以上で肥満による合併症がある人を対象とすることになっている。「やせないと、より深刻な病気になり、命にかかわるような人に限る」(川村功・鎌ケ谷総合病院名誉院長)という。
身体的負担も
 手術によって、単に体重が減るだけでなく、大原さんのように、糖尿病や脂肪肝などの合併症の改善効果も期待できる。川村名誉院長は二〇〇七年までの二十五年間に実施した患者を対象に手術前後の健康状態を調べた。糖尿病を発症している人が七分の一、脂肪肝が十一分の一、高血圧が六分の一に減っていた。
 ただ、課題もある。開腹手術は大きな身体的負担を伴うほか、時間がたつと胃に巻き付けたバンドの不具合などで、再手術になることもある。
 手術後は胃が縮小した分、人一倍、食事の内容や食べ方に気を配らなければならない。ゆっくりとよくかんで食べ、消化の悪いものや脂肪分の多いものを控えるなどの制限もある。食生活を改めないと、再び体重が増加に転じる人もいる。
 東京逓信病院の宮崎滋内分泌代謝内科部長は「胃の手術が適切かどうかは、患者ごとBMI値や肥満の重症度から慎重に見極めなければならない。胃を小さくするだけでやせると考えるのはよくない」と警鐘を鳴らす。

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