20080917 日本経済新聞 夕刊

 【ニューヨーク=松浦肇】米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の経営悪化は、傘下のグループ企業を通じた証券化商品への保証業務や自己投資を体力以上に拡大したことが背景にある。内外に広がる販売網や系列会社、顧客など同社の資産への評価が高いにもかかわらず資金の出し手は民間からは現れず、中央銀行の緊急融資という異例の救済劇に発展した。(1面参照)
 中央銀行による緊急の融資は取引関係のある預金取扱金融機関に限定されるのが一般的。ただ、FRBの業務などを定めた連邦準備法は、緊急かつ切迫した状況では銀行など取引関係のある金融機関以外の一般企業や個人にも特別に融資できると定めている。今回はこの規定を活用。臨時かつ異例の措置に踏み切った。三月の一連のベアー・スターンズ救済時と同様、放置すれば金融恐慌につながりかねないと判断した。
 AIGは米国を中心に本業の生損保業務の利ざやが薄くなったことに対応して、ここ数年は証券化商品の保証業務や住宅ローン担保証券の投資など多角化を進めていた。住宅ローン担保証券への投資残高は六月末で七百七十五億ドルと自己資本の額に匹敵する。
 保証業務はAIGの高格付けを利用して、投資銀行が組成した債務担保証券(CDO)などの証券化商品の元利保証を投資家に約束する内容。具体的にはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)を用い、保証残高は四千億ドル超(六月末、名目ベース)と自己資本の五倍以上に達した。
 一方で、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の深刻化を受け、格付け会社はAIGが保有する住宅ローン担保証券や保証するCDOの価値減損に注目。AIG本体の格下げに動いた。このため、AIGは保証していた証券化商品の元本返済を確実にするために、現金担保を差し出す必要に迫られ、資金繰りが急速に悪化した。
 先週末にかけて航空機リース事業売却や増資を柱とするリストラ策を計画していたが、財務体質に不安を持った増資先の投資会社が引き受けに難色を示したため、AIGは米連邦準備理事会(FRB)の救済を仰いだ。AIGが今年六月末までの一年間で計上した信用関連の損失は計四百四十億ドルに達し、七―九月期でも百億ドルを超える損失を計上するとみられる。
 AIGは百カ国以上に事業展開し、一兆ドルの資産を抱える。利益の五割程度が日本を含む極東地域を中心とする海外が占めるとみられる。AIGの経営危機がさらに深刻化すれば、デリバティブ市場など全世界の金融システムに影響する可能性があった。
【図・写真】16日、AIG本社前でメディアのインタビューを受ける社員=ロイター


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