20080915 日本経済新聞 朝刊
銚子市立総合病院が休止に追い込まれたのは市の対応が後手に回ったことが背景にある。公設公営という現状の維持にこだわり現場に権限を移譲せず、一方で改革への取り組みも不十分だった。このため多くの医師を派遣していた日本大学が引き揚げた後、残った医師も次々と去り、診療体制を確保できなくなった。
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市が早い段階で抜本改革に踏み込めなかったのは、待遇のよい公務員のままでいたい病院職員に配慮したためだ。一般会計から年九億円を病院に繰り入れ、「不良債務」と呼ぶ資金不足の発生を防いできた。だが、繰り入れた資金は職員の人件費に消え、病院に必要な投資には回らなかった。
市は今になって指定管理者制度の導入や公設民営などによる再開を目指しているが、総務省の公立病院改革懇談会座長を務めた長隆氏は「順序が逆」と指摘する。「休院すると商品価値が落ち、(指定管理者などに)応じるところはなくなる」
同市に限らず、公立病院の関係者からは「(二〇〇四年に導入された)研修医制度が医師不足を招き、度重なる診療報酬の引き下げで経営が苦しくなった」との恨み節がよく聞かれる。
医師の確保が難しくなったのは明らかに国の政策ミスではある。だが、与えられた条件下で経営することが病院開設者の自治体に求められる。民間企業であれば、法律や税制が変わり経営環境が悪化したからといって泣き言を言っても始まらない。政府を恨んでいるだけでは倒産してしまう。
日大には「周辺に総合病院があり、(医師を引き揚げても)地域医療は崩壊しない」との判断があったとされる。しかし昨年、日大の通告を受けた時点で市が抜本改革に乗り出していれば、事態は変わったはずだ。
全国で銚子市と似たような環境に置かれた公立病院は決して少なくはない。その一つが北海道小樽市。二つの市立病院は医師の減少に苦しみ、資金不足は〇七年度末で三十八億円にのぼる。市内に民間の総合病院が三つあるのに、抜本的な経営改革を避けてきた。
それどころか、つい最近まで、土地代を除いても百五十億円超かかる病院の移転・新築計画を進めていた。小樽病院事務局の小山秀昭次長はいまだに「入院患者の四分の一は札幌に流れており、市の病院は必要。建設計画は凍結でなく中断しているだけ」という。倒産寸前の企業が、大型の設備投資をしようとしているようにも見える。
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経営を立て直す処方せんは、総務省がまとめた「公立病院改革ガイドライン」が示している。(1)複数の病院をまとめる再編・統合(2)自治体から切り離し責任と権限を明確にする独立行政法人化(3)専門家に運営を委ねる指定管理者制度の導入(4)民間への譲渡――などだ。
金沢医科大学を指定管理者として市民病院の経営を全面的に託した富山県氷見市のように、公設民営により地域の医療を守った上で自治体の負担減につなげた例も増えている。共通するのは、職員の給与水準を下げるなど痛みを伴う改革をためらわないことだ。
「急な改革は角を矯めて牛を殺すことになりはしないか。あまり厳しくやるとドクターが民間に逃げてしまう」。全国自治体病院協議会の辺見公雄会長は懸念する。だがジリ貧の病院が手を打たないと、銚子市のように「突然死」してしまう。診療所への格下げや閉鎖も相次いでいる。時間をかけてはいられない。
(編集委員 磯道真)
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