20080908 日本経済新聞 夕刊

 医師、特に病院勤務医の不足が深刻な問題となり、全国各地で病院の閉鎖や一部診療科の休止が相次いでいる。これに対し政府はやっと重い腰を上げ医師養成人数の増加を打ち出した。これで中長期的には問題解決かというと実はそうではない。財源が定かでないのだ。
 厚生労働省の「安心と希望の医療確保ビジョン具体化に関する検討会」は八月二十七日、医学部の定員増加や、疲弊している産科や救急の医師への手当支給などを柱とする中間報告骨子をまとめた。現在約七千八百人の医学部定員は、将来的に一・五倍に増やすことを目標にするという。
 経済協力開発機構(OECD)の統計(二〇〇四年時点)によると、日本の人口千人当たり医師数は二人。三人以上が珍しくないOECD加盟国の中では少ない部類だ。定員を一・五倍にすることで中長期的にOECD諸国の平均並みを狙う。
 この中間報告に先立ち、政府は六月末にまとめた「経済財政改革の基本方針(骨太の方針二〇〇八)」にも医学部の定員増加を盛り込んでいる。これを受け全国の医科大学は二〇〇九年度に合計で七百人以上の定員増加を文部科学省に申し込んだ。一・五倍増に向け順調な滑り出しのようにも見える。
 ところが同じ二十七日に、国立大学医学部長会議が「医学部定員増に関する問題点について」という要望書をまとめた。「定員を増やして、予算が増えなければ、医学教育の質が低下するだけ」と強調。具体的には、定員増一人当たり一千万円の予算配分、定員増二十人当たり十二人の教員増を訴えている。
 文科省は来年度については定員増に伴う一定の予算増を要求するという。ただ再来年以降も財源の裏付けができたわけでは全くない。一部に「一・五倍も必要なのか」との声も出始めている。
 国内総生産(GDP)に占める医療費の比率も、教育費の比率も日本はOECD諸国の中では低い。経済力からするともっと費用をかけることが可能だともいえる。そうは言っても、天からカネは降ってこない。財源確保の議論を早急に始める必要がある。
 「だれもが安心できる質の高い医療」を求めるのならば、政府の中で予算の使い道を大胆に見直すだけでなく、国民にも相応の負担の覚悟が求められそうだ。
 (編集委員 山口聡)