20080905 日本経済新聞 朝刊

 中小企業の社員らが加入する政府管掌健康保険(政管健保)を引き継ぐ全国健康保険協会(協会けんぽ)が、十月一日に発足する。政管健保は医療費の増大などから二〇〇七年度に赤字に転落。保険料率を引き上げなければ、財政の安定のために積み立ててきた「事業運営安定資金」が〇九年度に枯渇する。財政基盤に不安を抱えた新健保は発足当初から厳しい運営を迫られる。
 高齢化で医療費が膨らんでいることに高齢者医療制度への拠出などが加わり、健保財政の悪化は構造的な問題になっている。安定資金の積立残高は〇七年度末に三千六百九十億円あったが、〇八年度末には千八百億円に減少する見通し。保険料率を引き上げなかった場合、〇九年度の単年度収支は二千七百億円の赤字が見込まれ、安定資金は差し引き約九百億円のマイナスに陥る。
 このため、厚労省は〇三年度から据え置いてきた現在の保険料率(八・二%)を全国平均で〇・一―〇・三%程度引き上げることが避けられないと判断している。〇・一%の引き上げ幅で保険料収入は九百億円改善。〇・三%引き上げれば安定資金は今年度並みの千八百億円の水準を保てる計算となる。
 政管健保からの制度移行に伴い、これまで全国一律だった保険料率は協会けんぽ発足から一年以内に医療費の高低に応じて各都道府県が保険料を設定する仕組みに変わる。
 ただ、保険料率の引き上げには様々な反発も予想される。都道府県ごとに料率に差が出ることもあり、協会けんぽの本部と各都道府県の支部との交渉が難航する恐れがある。さらに保険料率の変更には最終的に厚生労働相の認可が必要なため、その時々の政治情勢に左右される可能性も排除できない。
 政管健保は〇二、〇三年度にも安定資金が枯渇したが、国の財政投融資資金からの一時借入金で賄った。その後、月収と賞与に同率の保険料をかける「総報酬制」の導入や自己負担引き上げなど負担増・給付減につながる制度改正で〇三年度にようやく黒字化した経緯がある。
 新組織でも短期の借り入れは可能だが、新制度の下では国からではなく、民間金融機関から資金調達することになる。市中金利に影響されるため、財投資金からの調達よりも条件が不利になる可能性もあり、従来より厳密な収支管理が必要だ。
 今年度に入って西濃運輸(岐阜県大垣市)など健康保険組合の解散が相次いでいる。健保組合の加入者が政管健保に移行すれば収支のさらなる悪化につながる懸念もある。高齢化の進展で支出増大が続く一方、財政難の国からの補助金に頼ることもできない。現在の制度設計では収支改善の展望が描きにくい。より効率的な医療や患者の負担引き上げ、保険料率の引き上げなど、高齢者医療制度も含めた医療保険制度全体の観点から、負担と給付のあり方を見直す議論も必要になる。
 ▼政府管掌健康保険 財政基盤が弱く健康保険組合を持てない中小企業のサラリーマンやその家族が主に加入する。管理・運営は社会保険庁が担ってきたが、同庁の解体に伴い、十月から「全国健康保険協会」に移行する。加入者数は二〇〇七年三月末時点で約三千六百万人。ほかに大企業の従業員が加入する健康保険組合、自営業者や農業従事者を対象とし、市町村が運営する国民健康保険などがある。





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