20080830 日本経済新聞 朝刊
大阪府の河村忠二さんがあいおい損害保険からの内容証明郵便を受け取ったのは昨年六月。「ランク認定要件が足りず、代理店委託契約の継続は不可能と判断します」。損保の代理店契約を解除するとの通知だ。
河村さんは三十六年間、損保代理店を営んできた。保険料収入は年五百万円ほど。「売り上げが少ないからと違いまっか」。河村さんは解除の理由をこう推測する。
代理店を統廃合
大手損保会社が代理店の統廃合を進めている。二〇〇八年三月末の代理店数は二十三万六千。一年で七%減った。五年前より九万店少なく、減少ペースも速まっている。「保険金の不払いや保険料の取りすぎで、法令順守の水準が低い零細代理店を抱えられなくなった」(大手損保の首脳)。各社は商品知識や契約事務に精通した大型代理店を増やし、全体の業務品質の向上をねらう。
大手生保の営業職員、山本秋子さん(仮名)は入社十三年目のベテラン。支社で同期入社は四百―五百人はいたが、いま残るのは三人。所属する都内の営業部は総勢四十人ほどのうち、六十歳以上が十人、入社二年目までの育成社員が十六人。山本さんは「高齢者と初心者ばかりで働き盛りがいない」と嘆く。
営業職員の高い離職率と高齢化は大手生保共通の悩みだ。保険金不払いも、加入時の営業職員が辞めて担当者が誰もいない「売りっぱなし」の契約で多発したとされる。日本生命保険の営業職員の経験がある後田亨氏は「新契約の厳しいノルマに追われ、アフターサービスをする余裕もなかった」と振り返る。
「もっと介護保険制度を勉強しなければと感じました」。東京・西新宿のオフィスビル。住友生命保険の営業研修だ。集まった女性はふつうの営業職員ではない。給与が完全固定給なのだ。
完全固定給制に
生保の営業職員は新契約の獲得に応じた歩合給が当たり前。条件なしに固定給を払うのは珍しい。住友生命都心人材開発室の曽根基次室長は「優秀な人材を確保し、長く働いてもらいたい」と話す。七月に五十人を初めて採用し、五年後には九百人まで増やす。
明治安田生命保険は十一月、加入者へのアフターサービスに給与で報いる営業職員制度を始める。契約者を年二―四回訪問したりすれば、固定給を大幅に増やす。昨年四月に同様の制度を導入した日本生命では、契約の継続率や営業職員の離職率が大きく改善した。
生損保各社は戦後、事実上の「保険販売会社」として成長してきた。商品や保険料に大きな差はなかったからだ。「生保は営業職員数、損保は代理店数だけを競ってきた」(大石保険研究所の大石正明代表)。保険を普及させる役割は果たしたが、顧客満足度や業務品質を高める発想に乏しく、制度疲労の行き着いた先が不払いだった。
行政にお灸(きゅう)を据えられ、ようやく重い腰を上げた保険会社。変革の歩みを止めれば、今度こそ消費者はそっぽを向きかねない。
どんな保険に加入したらいいのかわからない人は、営業職員や独立系ファイナンシャルプランナーに相談するのも手だ。インターネットで相談相手をみつける方法もある。保険関連サイト「生命保険選びネット」には営業職員や保険代理店を登録したコーナーがある。登録した約三百人が得意分野や取扱商品を紹介する。同サイトを主宰する山浦邦夫氏は「商品を探す以上に『保険のプロ』を見つけることが大切。一人でなく複数のプロの話を聞くべきだ」と話している。
【図・写真】固定給の営業職員を対象にした住友生命の研修(東京・新宿)
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