20080829 日本経済新聞 朝刊

 「保険会社よりも大きな規模の保険流通企業をつくる」。客が店を訪れて、複数の保険会社の商品から選ぶ保険の来店型ショップ、「ライフサロン」を運営するリンク・トラスト(東京・中央)の大寄昭生社長の持論だ。現在は八十店舗だが「五年後には二千店舗をめざす」と意気込む。
 二〇〇〇年ごろから出店が始まった来店型ショップ。大寄社長の試算では、仮に二千店舗になれば新契約から得る保険料収入は年一千億円。明治安田生命保険に匹敵する。「強い流通ができれば保険販売のムダをなくせる。保険会社はメーカーに徹してほしい」(大寄社長)
 千葉県の松戸、新松戸、南柏、柏、我孫子など特定地域に集中出店する戦略をとる。出店にはフランチャイズチェーン方式を活用するなど、戦略は小売業そのものだ。
外回りをやめる
 「外回りの営業には行かないでください」。三井住友銀行コンサルティング事業部の真鍋浩グループ長は、保険会社から中途採用した職員二百五十人に語りかける。店舗を訪れた客に勧める来店型に絞った、新しい販売手法の確立を目指す。
 昨年十二月に死亡保険、医療保険などあらゆる保険商品を銀行が窓口で扱えるようになった。三井住友銀は三メガバンクの中でも「保険の銀行窓販」に積極的だ。
 訪問販売しか知らない保険会社OBには戸惑いもある。だが「生保の営業職員は二十五万人。そこに銀行が後発で入っても勝てない」(真鍋氏)。一―三月の販売実績は約九百件。法令順守に気を使ったこともあり、件数はまだ少ない。将来は取扱店舗を全四百十店舗に広げ、保険会社からも採用を増やす。
 保険商品の内容に差がなかった時代は、もっぱら製造から販売までを一体で手掛ける大手生損保が優位だった。規制の緩和や商品の多様化が進めば、客にとっての利便性や販売コストがカギを握る。大手生損保は高コストの販売網が負担になる可能性がある。「生命保険の罠」などの著書がある後田亨氏は「自社商品しか売らない保険会社の営業体制は限界」と指摘する。
 既に効率的に保険を販売する「製販分離」を見越した動きもある。
電話だけで販売
 東京・渋谷のオフィスビル。若者が電話をかけ続ける。「私、アフラックの代理店をしております……」。電話だけで保険を販売するフィナンシャル・エージェンシー(東京・渋谷)のコールセンターだ。
 同社は代理店として保険を売るだけでなく、保険会社から販売業務を受託する。斎藤正秀社長は「保険の流通構造を合理化する会社」と語る。
 斎藤社長は以前在籍した光通信で、生命保険を電話だけで販売する手法を確立した。いまや光通信グループはアフラックやアリコジャパンの有力代理店だ。
 既に変額年金で起きているように、製販分離が進めば商品の開発競争が激しくなる。巨大流通はわかりやすく、安い保険商品を選んで売るからだ。保険金不払いで生損保各社は複雑な商品を見直し始めたが、川下からさらに大きな変革のうねりが迫っている。
 銀行や来店型ショップは、複数の保険会社の商品を比較して選べるのが最大の利点だ。相談は無料の場合が多く、保険知識が乏しい人が気軽に話を聞くのに向いている。ただ、ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんは「相談風景がほかの人から丸見えで、プライバシー保護が不安なショップもある」と話す。保険会社から受け取る販売手数料が収益源なので「手数料の高い商品を勧める傾向がある」との指摘もある。本当に自分にあった商品かをよく確認することが必要だ。
【図・写真】複数の保険会社の商品から選べる(千葉県松戸市の「ライフサロン」)


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