20080828 日本経済新聞 朝刊

 保険の売り方が大きく変わり始めた。インターネットや電話を通じて顧客に保険商品を販売する動きが一段と広がり、規制緩和で銀行も保険を扱うようになった。保険の販売ルートで生じた構造変化は止まらず、営業職員や代理店などによる販売に力を注いできた大手生損保の経営も揺さぶる。地殻変動を起こす保険ビジネスの現状を追う。
シェア10%迫る
 「ガソリン代は気にするのに、自動車保険料は気にしてなかった」。ソニー損害保険の広告だ。代理店を通さず、ネットや電話で自動車保険などを販売する「直販損保」の最大手。ガソリン高騰に的を絞り、保険の見直しを呼びかける。
 米国などで広がった直販損保が日本に上陸して約十年。年齢や条件によっては大手より二―三割安いと言われる低水準の保険料でじわじわと浸透してきたが、最近のガソリン代高騰で追い風が強まった。保険比較サイトで三井ダイレクト損害保険を選び、保険料見積もりを求めるアクセス件数は年明け以降、前年を三―四割上回っている。
 ソニーなど直販三社の四―六月期の自動車保険料は前年同期比一二%増だが、東京海上日動火災保険など大手七社は一%減。個人自動車保険に占める直販のシェアは二〇〇八年度に一〇%に迫る見通し。「直販損保はこれからまだ伸びる。大手損保の危機感も強いはずだ」と、保険評論家の山野井良民氏は分析する。
 横浜市在住の会社員、内田晴喜さんは七月、結婚を機に生命保険に加入した。選んだのはネットで保険を販売するライフネット生命保険の死亡保険と医療保険。「商品がわかりやすく、保険料も安い」。保険料は合計で月三千八百円と大手生保の半額ほどだ。
事務経費を抑制
 四月にSBIアクサ生命保険、五月にライフネットと相次いで開業した「ネット生保」は営業職員を持たない。安い保険料は少ない経費の裏返しともいえる。両社の知名度はまだ低く、四―六月の新契約は合計約一千件。大手生保は「想定より少ない」と胸をなでおろすが「生命保険は対面でないと売れない」という業界の常識が崩れ始めているのは確かだ。
 「ネット販売の検討を進めろ」。都道府県民共済を創業した正木万平氏は最近、ひそかに指示した。同共済は営業員を持たず、格安保険料で新聞の折り込みチラシで勧誘。いまや日本生命保険を超す加入者を抱える「直販生保の巨人」だ。
 正木氏が「次世代のビジネスモデル」と確信するのがネット販売。「いまはまだチラシで売れるが将来はわからない」。さらに手続きが簡単なネット販売の検討を急ぐ。
 ライフネットは「一二年には年間百万件の生保新規契約がネット経由になる」と見込む。大手生保の一部は今秋に保険料を下げて対抗する構えだ。家計マネーが「ネット保険」にさらに流れるようなら、保険料に価格破壊の波が押し寄せる事態も起こりうる。
 ネット生保はほとんど特約がないなど商品設計が単純。二十―三十歳代の死亡保険料は大手より四―五割ほど安い場合もある。医療保険は一部の外資系と比べると必ずしも安くない。ファイナンシャルプランナーの内藤真弓氏は「必要な保障額を自覚している人などに向いている」と話す。
 対面販売でないので、契約を見直したり解約をしたりしやすい半面、住所や名義の変更など、契約の自己管理が不可欠だ。ウソの告知を防ぐため加入時に細かい質問を設ける会社もある。加入審査が厳しくなる可能性も指摘されている。


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