20080827 日本経済新聞 地方経済面
北陸の金融機関が個人向け金融(リテール)分野で火花を散らしている。中心は定期預金や住宅ローンで、金利優遇などで囲い込みを図る。ただ、景気後退色が強まる中、預金が積み上がっても収益に直結しない悩みも抱える。ゆうちょ銀行などの攻勢も激しさを増す。各地に根を張る店舗網で支持をつなぎ留めることができるか。金融機関のリテール戦略を探る。
「あんたら(が)暑いとこ何度も来たら、行かんわけにいかんわいね」。石川県を代表する観光地、輪島朝市。度々訪れる営業担当者を前に、朝市の女性はつぶやいた。
輪島支店の移転新築を記念し、七月末に金利一%の三年定期預金を目玉にキャンペーンを繰り広げた、のと共栄信用金庫(七尾市)。移転前の一カ月は、職員が市内の約六千軒を訪問。全支店長も一度は輪島を訪れ、かつてない「どぶ板」営業を展開した。
初日の七月二十八日は一千万円以上を預ける客も現れ、祝賀イベントに訪れた本店幹部も接遇に追われるほど。一週間で獲得したのは当初募集枠の倍以上の十一億円。従来、同信金の預金客でなかった人の新規開設が半数を占め、同支店の預金額は六割近く増えた。
大林重治理事長は「輪島は地震などで経済は厳しいが個人のストックはある。期待以上に集まった」と満足げだ。
移行は約1割
各金融機関の金利優遇商品は好調が続く。北国銀行が六月中旬から始めたキャンペーン定期預金も五百億円の募集枠を二カ月弱で達成。八月末まで二百億円を追加した。
様々な資金獲得手段も広がる。石川県に本店を置く六金融機関は昨春、県の子育て支援策に一部資金を供出するのをうたい文句に五年固定の優遇金利定期の扱いを開始。「子育て支援という親しみやすいテーマで金利も魅力」(昨年、北国銀で申し込んだ金沢市の主婦)と人気を集め、軒並み募集枠に達した。福邦銀行も同様の優遇金利定期を昨年八月から扱い、三十一億円強を集めた。
ただ、優遇金利の預金獲得は預金利息というコストが増えるだけ。預金を手数料収入につながる投資信託や保険などに呼び込みたいところだ。
「二〇〇七年問題」をきっかけに、各金融機関が期待を寄せるのが団塊マネー。三カ月間預けてもらい、満期後に投信購入なども検討してもらう「とりあえず預金」を扱う福井信用金庫(福井市)。昨年に続き三―六月に五十二億円を扱ったが、満期後に投信や生命保険に移るのは約一割どまりだったという。
北陸銀行は退職金専用で金利を優遇する定期預金の取り扱いを継続中だ。〇七年上半期で預金から投資信託など投資商品へ振り替えた客は全体の一割台。いずれも投信は当初見込みを下回る。
米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に端を発する金融市場の混乱が響き、投信などの販売は低迷が続く。地銀六行の〇八年四―六月期は、いずれも手数料が柱の役務取引等利益が前年同期比で減少。七%減の福邦銀を除き、二〇%前後の大幅な落ち込みだった。
変化の兆しも
一方、預金シフトは鮮明だ。個人預金の六月末の残高(六行合計)は七兆九千九百億円と三カ月で千三百億円増えた。昨年度一年間の増加分(二千二百億円)の約六割を、わずか三カ月で積み上げた計算だ。
貯蓄好きと言われる北陸だが変化の兆しはある。北陸銀行の店頭では株式を組み入れた投信は伸び悩むが、比較的安定したリターンが期待できる外債型投信は人気。別の富山県の金融機関は「配当収入と値上がり益の両方を合算して利益をみるようになった」と指摘する。
銀行窓販の拡大で取扱商品も広がり、個人の側もリスク許容度に応じた商品を選べるようになった。運用難の時代に個人のニーズをどこまで把握できるか。営業現場のスキル向上が欠かせない。
【図・写真】のと共栄信金は輪島エリアの預金獲得を足場に収益拡大を図る(輪島支店)
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