20080823 日本経済新聞 夕刊
「米国の住宅価格は下がらない」――。こんな神話を信じる人はもはやいないだろう。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が公表するケース・シラー住宅価格指数によれば、五月の米主要十都市の住宅価格の下落率は前年同月比一六・九%と過去最大。前年比での値下がりは二〇〇七年一月以来、十七カ月連続となった。
住宅市場の低迷がこれほど長引くのは、一九九〇年八月―九二年二月の十九カ月、九二年六月―九四年三月の二十二カ月以来、十数年ぶり。米国人の脳裏から住宅下落の記憶は薄れていた。当時の年間の最大値下がり率が六・三%(九一年四月)だったのを考えると、今回の調整の大きさがよりはっきりする。
住宅を担保に買い物をする人が多い米国では、住宅価格の下落が個人の生活を直撃する。米家計部門が所有する住宅資産は約二十兆ドル(約二千二百兆円)に上るので二割下がれば四兆ドルの“経済損失”だ。
〇八年の米新車販売は前年比一二%減の千四百二十万台と九三年以来、十五年ぶりの低水準に落ち込む見込み。七月の住宅着工件数が十七年ぶりの低水準を記録するなど経済指標が九〇年代前半の不況期と似てきたのは偶然ではない。
「貯蓄金融機関(S&L)不況」と呼ばれる九〇年代初めの景気後退のきっかけは、商業用不動産ブームの終焉(しゅうえん)で金融機関の経営が悪化、信用収縮が激しくなったこと。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題から始まった今の金融不安と相似形だ。
破綻寸前に陥ったシティバンクがサウジアラビア資本に六億ドルの出資を仰いだのが九一年。中東、アジアの政府系ファンドに頼る今の欧米銀の姿と二重写しになる。
米連邦準備理事会(FRB)は九〇年から九二年にかけて、政策金利を大幅に引き下げたが、雇用が悪化、不況突入を防げなかった。そして今、米政府・FRBは、利下げや大規模減税、住宅金融公社支援で景気後退を食い止めようと必死だ。米経済の正念場は続く。
発田真人、井上達也、加藤修平が担当しました。
【図・写真】住宅価格下落が続く(米イリノイ州で売りに出された住宅)=ロイター
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