20080823 日本経済新聞 朝刊
ゆうちょ銀行は来年一月、民間金融機関の決済網である全国銀行データ通信システム(全銀システム)に接続し、民間銀行と互いに振り込みができるようにする。個人マネーを奪い合ってきたゆうちょ銀と銀行界の歴史的な連携だが、振り込み方法が複雑なため、混乱も懸念される。利用方法をどれだけ周知できるか、時間との戦いが始まった。
二〇〇九年一月五日。ゆうちょ銀の知人の口座にお金を振り込もうと、メガバンクのATMを訪れた利用者の動きが止まった。知人から教えてもらった口座番号を入力しようとするのだが、なぜか番号のケタ数が合わない。システム障害が発生したのか――。
こんな混乱が全国で起こるかもしれない。ゆうちょ銀から銀行へは通常の操作で振り込みができるが、銀行からゆうちょ銀に振り込む方法がかなり複雑なためだ。ゆうちょ銀が各利用者に割り当てる振り込み専用の新番号を使う必要があり、その番号を知っていなければ振り込めない。
ゆうちょ銀と銀行の口座番号のケタ数が違うため、解決策として、ゆうちょ銀が一つの口座に二つの番号を持たせることにした。図のように、もともとの口座番号から新番号を割り出す方法もあるが、かなり難しい。専用ダイヤルやホームページなどで、振り込み専用番号をあらかじめ調べておく必要がある。
問題はゆうちょ銀の口座数が膨大(約一億二千万口座)で、利用者には高齢者も多いこと。そのうえ、混乱は振り込む側の銀行のATMで起こるとみられるが、銀行員はゆうちょ銀の口座番号の仕組みなどについて、詳しく説明しにくい。
「利用者の理解をどれだけ事前に得られるか。不十分なら接続延期もあり得る」(全国銀行協会の関係者)。通常のシステム接続と違い、技術的な問題だけでなく、利用者への周知という難題が横たわる。
ゆうちょ銀は利用者への新番号の浸透に懸命だ。国内の全世帯、事業所向けに十月から約五千七百万通のダイレクトメールを送る。接続直前には、テレビコマーシャルを流す。
ゆうちょ銀と銀行界が混乱の可能性を意識しながらも相互接続に踏み切るのはなぜか。両者は「顧客利便のため」と口をそろえる。特にゆうちょ銀は、口座の使い勝手を良くして「普通の銀行」に近づく必要がある。
両者が手を結ぶ背景には、力関係の変化もある。金融危機の時代は銀行のお金が旧郵貯に流れ、肥大化や民業圧迫が問題となった。今も地方銀行を中心に脅威論が残るが、ゆうちょ銀の貯金が年間十兆円規模で流出し、大手銀がカネ余りに悩むまでに状況は変わった。
「ゆうちょのお金がサービスの良い銀行に一段と流れ出てしまうかもしれない」。ゆうちょ銀では「銀行脅威論」も台頭する。
どちらが脅威かは別にして、自由にお金をやりとりできるようになれば、サービスのよい方にお金は流れる。健全な競争の世界にようやく両者が足を踏み入れつつある。
【図・写真】ゆうちょ銀行と他の銀行との接続を知らせるダイレクトメール
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