20080822 日本経済新聞 朝刊

 今年は従業員の年齢構成が若い企業が運営する健康保険組合を中心に、解散が増えることはある程度、想定されていた。「財政調整」の名のもとに、六十五―七十四歳の前期高齢者の医療費を押し付ける仕組みが取り入れられたためだ。
 四月に制度化された高齢者医療制度は、七十五歳以上の人が払う保険料の「年金天引き」ばかりが注目され、現役世代の負担が大きく増えたことは陰に隠れがちだった。それが今回の健保解散で表面化したわけだ。
 健保組合や公務員共済組合が七十五歳以上に拠出する負担金の割合は当面、給付費の四〇%に上限を定めた。これは前進だ。だが前期高齢者の医療費を誰がどう賄うのかは丼勘定といっていい。高齢者の加入比率が格段に高い市区町村の国民健康保険と分担することにしたため、健保・共済グループには保険料率の引き上げを余儀なくされたところが続出した。
 社会保険庁が運営する政府管掌健康保険より高い料率になれば企業単位で組合を維持する理由はなくなる。西濃運輸グループの決断は合理的だ。
 健保制度は民間が自主性に基づいて運営するのが原則。従業員のために独自の病気予防事業をしたり、腕が立つ医師の多い病院と個別に受診契約を結んだりするなど、企業経営に近い感覚が求められる。その自主性を生かす条件は、従業員と経営者が折半する保険料負担と、その見返りとしての医療給付との関係が対になっていることだ。
 にもかかわらず、高齢者医療費として召し上げられる拠出金負担には、健保組合の経営努力がおよびにくい問題がある。病気やけがをするリスクが高くなる高齢層の医療費は公費負担を高め、そのぶん現役世代の拠出金を減らすような制度改革も検討課題になろう。
(編集委員 大林尚)




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