20080820 日本経済新聞 朝刊
厚生年金基金と並ぶ代表的な企業年金として普及した税制適格年金が二〇一二年三月末に廃止になる。他の企業年金への移行や解約が済んでいない適格年金は〇八年三月末で三万二千八百二十六とピーク時の四割残っており、制度移行が円滑に進んでいない。生命保険会社や信託銀行は確定拠出年金などへの乗り換え提案を急ぐが、コストや人員負担の面から中小企業は及び腰になっている。
「税制適格年金が廃止になることは知っているが対応はこれから」。抵抗溶接機器メーカーのミヤチテクノスの幹部はこう打ち明ける。商工会議所年金教育センターの〇七年調査では適格年金の廃止を「知っている」との回答は九七・五%。知ってはいるが、他の年金制度への移行に二の足を踏んでいるのが実態だ。
専任担当おらず
税制適格年金は積み立てにかかる拠出金の全額を税務上、損金算入できるため、中小企業を中心に普及してきた。だが年金財政をチェックする仕組みが不十分で、多くの企業で積み立て不足が深刻化。従業員の受給権保護のため、一二年三月末に廃止されることになった。
実は適格年金は年金という名称は付いているが、退職一時金という性格が強い。そのため、従業員が百人未満の企業は国の退職金制度である中小企業退職金共済(中退共)に移行する事例が目立つ。ただ大企業は加入資格がなく、すでに中退共も利用している企業は適格年金の資産を中退共に移すことはできない。
適格年金の受け皿としては確定給付企業年金や確定拠出年金などがある。ただ確定給付年金に移行するには財政チェックの強化、確定拠出年金への移行には積み立て不足の解消が不可欠。中小企業にはこうした詳細設計をできる専任担当者がおらず、時間だけが過ぎていく。適格年金を節税できる金融商品として導入した経営者が多いことも移行遅れの背景にある。
焦る金融機関
「そろそろ間に合いませんよ」。日本生命保険の和田俊介専務執行役員は企業訪問を続けている。腕に抱えた封筒の中には適格年金からの早期の移行を訴える社長名の文書。こうしたキャラバンを全国に広げている。
日本生命は払った保険料の一部が損金扱いになる法人保険への移行などでピーク時に一万六千弱あった契約を六千まで削減。比較的規模の大きい企業との契約が多い中央三井アセット信託銀行も六月末で八百三十六と〇一年度に比べ半分に減らした。ただ確定給付や確定拠出の年金制度設計には最低でも二年かかるため、適格年金の廃止期限が迫れば対応能力に限界が出てくる。
りそな信託銀行が用意したのは「加入者数」「平均勤続年数」など十数項目を記入すれば規約作成から申請まで面倒を見るパッケージプラン。「選択肢が多すぎるから戸惑っている企業が多い」(年金ソリューション部の芦田直幸グループリーダー)とみて、給付設計を定額にするなど汎用化した商品を提供している。
企業にとっては適格年金の受け皿を用意せずに廃止してしまう選択肢もある。ただ退職金制度を続けるのなら、資金手当ての手段を考えなければならない。厚生労働省は適格年金廃止の期限の延長は考えておらず、移行を検討中の企業も悠長に構えている時間はない。
------------------------------------------------