■理念か、政策か
出席した委員が自己紹介を兼ねて一通り発言した後、意見交換に入った。
鳥羽研二委員(杏林大医学部教授)は「自立支援だけでは安心が得られない」と主張。高齢者が安心して暮らせるための「セーフティーネット」への転換を進める必要性を指摘した上で、会議の目的に言及した。
「会議のタイトルである『安心と希望』には主語がないが、誰の安心と希望か。わたしは介護を受ける人やその家族が、『安心と希望』の対象になると考えるが、理念(ビジョン)と政策を分けて議論しないと錯綜(さくそう)する。何を焦点に置くかを定めれば、議論がかみ合っていくだろう」
これに対し、厚労省老健局の大澤範恭・総務課長は「意図を持って書いたタイトルではない」と回答。前田雅英・座長(首都大学東京都市教養学部教授)は「長期か短期か、理念か政策か、現状を念頭に置くのか理想像を描くのか。総花的にすると何も出てこないので、(厚生労働)大臣の意向を踏まえて絞り込んで進めていきたい」と答えた。
しばらく意見交換が続いた後、舛添要一厚生労働相が間もなく到着するとの連絡が事務局に入った。委員の発言中、前田座長は「心ここにあらず」といった雰囲気で、そわそわしながら入り口付近を気にしている。
午後4時の開始から約80分を経過して、ようやく舛添厚労相が入室。「急に公務が入ったため、冒頭から出れなくて失礼した」と会釈して、次のようにあいさつした。
「医療と共に介護は国民的な関心事。今まさに、介護の現場は非常に危機的な状況にある。霞が関や国会など、現場の声が届かないところで作業している。それがいろいろな意味で問題を起こしているので、現場や国民の視点から、忌憚(きたん)のないご意見を賜りたい。できる限り皆さんと一緒に現地を視察して、生の声を頂き、それを政策に反映させていきたい」
舛添厚労相はまた、「政策」の具体例として来年度の介護報酬改定を挙げた。「国民や介護の現場で働く人たちが、『わたしたちの未来に光が見えてきた』と思えるような『ビジョン』をまとめていただき、具体化作業をやり、年末の予算編成で予算を付けて実行していきたい」と抱負を語った。
これに対し、前田座長が議論の方向性について質問。「12月までにまとめるとすると、長期的な理想像を描くよりも介護における現実的な問題点を摘出した上で、直しやすいものから直すという方向と考えていいだろうか」
■社会保障国民会議か、介護ビジョン会議か
舛添厚労相は「座長、そうではない。長期のビジョンがあるから緊急措置も生きてくる」と述べ、長期のビジョンと目の前の課題解決は“車の両輪”との考えを示した。
「医療では、長期のビジョンをまとめた。そうすると、『産科が閉鎖されて分娩ができないのに、何を悠長なことを言っているのだ』という意見があるが、緊急対策として、いろいろな手を打っている。例えば、医師不足に対しては防衛省のインターンを派遣する。しかし、それだけでは夢も希望もない。『今は我慢してほしい。でも、10年後にはこんな明るい未来がある』という長期ビジョンがあるから、緊急措置も生きてくる。介護の報酬を上げただけで終わりではなく、介護の現場の方々がみんなから尊敬され、『今は苦しいけれども、必ず明るい未来がある』と思えるような長期的なビジョンがないといけない」
前田座長は「わたしの受け止め方が狭かった。では、この会議が何を目指すか、あらためて委員の方から発言を願いたい」と意見を求めたところ、袖井委員が舛添厚労相に質問。「社会保障国民会議もあるし、社会保障審議会もある。なぜ、この会議をつくったのか」と、より踏み込んだ説明を求めた。
舛添厚労相は「医療ビジョン(安心と希望の医療確保ビジョン会議)の介護版だ」と回答。「もし、あの会議がなかったら、『医師の数は十分だ。偏在しているだけだ』という方針がひっくり返っただろうか。あの議論があったからこそ、(医学部の定員増などを)やれた。審議会は山ほどあるが、審議会での議論は誰の責任でもない。時々、小さな囲み記事で出るぐらいで、ほとんど報道されないから(国民は)知らない。議事録があるから、“密室”とは言わないが、要するに発信力がない。国民を参画させた形での議論ではない。同じことが介護についても言える。社会保障国民会議など、会議はたくさんあるが、(介護ビジョン会議を)一番発信力のある会議にしたい。介護は、医療と共に全国民が関心を持っている身近な問題であり、すべての人が発言できる問題だ。皆さんの力をお借りして、総理とぶつかっていく。財務大臣とも闘っていく。政策を実現する“ツール”として医療ビジョンは大きな意味を持ったので、同じような形でやりたい」
同会議は今後、介護現場の視察や関係者からのヒアリングなどを実施し、年内に「介護ビジョン」を取りまとめる予定。
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