20080816 日本経済新聞 夕刊

 母子家庭が増え、国は様々な支援策を打ち出している。しかし、利用できない母親や「そもそも知らない」という母親も多い。母子家庭の現状に詳しい独立行政法人労働政策研究・研修機構の周燕飛(しゅう・えんび)研究員に報告してもらった。
 意外に思うかもしれないが、日本の母子家庭への公的支援制度は多岐にわたり、国際的にみてもかなり充実した水準にある。以前からあった児童扶養手当や医療費助成、母子寮、公営住宅への優先入居などに加え、二〇〇三年の「母子及び寡婦福祉法」改正法施行で、就業支援策が強化されたためだ。
 背景には、母子家庭の経済的自立を急がなければならない事情がある。児童扶養手当の給付総額は〇五年度で五千二百七十九億円。一九九五年度の一・五倍だ。
 国は支援を厚くして母親の収入を増やし、手当を削減したいと考えたわけだ。
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 ただ、収入増は容易ではない。厚生労働省の全国母子世帯等調査(二〇〇六年度)によると、母子家庭の母親の年間就労収入は、九割弱が三百万円未満。働いている母親の半数は、臨時・パート等の不安定な雇用に甘んじている。
 もちろん対策もある。自立できる収入が得られるよう専門的な資格取得を支援する「高等技能訓練促進費」だ。期間が二年以上の職業学校に通う母親向けの制度で、カリキュラムの最後の三分の一の期間(最大十二カ月)に、生活費や学費として月十万三千円が助成される。利用者の多くが看護師などの専門資格を取得し、常勤職への就労率は高い。
 だが最初の三分の二の期間をしのぐ資力がない母親も多い。〇七年十二月―〇八年一月に我々が実施した調査(母親千三百十一人が回答)でも「学費を用意したり、実習に行ったりする時間がとれない」ため利用を断念したとの記述が多く寄せられた。
 それならば働きながら資格取得や職能を磨くことができないか――。これに応えるのが「自立支援教育訓練給付金」だ。受講費用の二割、最大十万円が助成される。
 ただし就職率は五割程度で、常勤の仕事につける割合も三―四割に下がる。「教育訓練講座で取得できる資格や技能はあまり高収入に結びつかない」との声は本音だろう。
 就業支援のほか離婚前の相談や養育費の取り決めなどにも対応する「母子家庭等就業・自立支援センター」についても、母親たちの評価は分かれた。「就業支援講習会で互いに理解し励まし合える友人ができた」という肯定的な声がある一方「時間帯が合わない」「場所が遠い」という声も少なくない。
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 そもそも支援策には内容以前に、二つの大きな問題がある。一つはこれらの事業がすべての自治体で実施されているわけではないことだ。例えば、高等技能訓練促進費の自治体の実施割合は、〇七年度で六三%。居住地によって訓練を受けやすかったり受けにくかったりするのは好ましいことではない。
 さらに、もう一つ、かつ最大の問題は、国や自治体のPR不足で事業の存在が母親たちに知られていないことだ。
 「就業支援についてそんな制度があるなんて全く知らなかった」
 「窓口で直接話しているのだから、支援制度についてもっと詳しく教えてほしい」
 アンケートの自由記述欄に書かれた意見の一例だ。より詳しく尋ねるヒアリングでも、事業の存在を知らなかったために利用しなかったという人が多かった。
 もちろん、母子家庭の女性たちにも、自ら制度を探す努力が欠かせない。毎日忙しいだろうが、パソコンで調べたり、行政側に積極的に尋ねたりしてほしい。一方で、「新しい支援制度を作ったら、福祉事務所からの手紙に情報を同封して、必ず私たちの手元に届くようにしてもらいたい」という彼女たちの訴えに、行政もきちんと耳を傾けることが大切だろう。
【図・写真】周 燕飛
【図・写真】熱心に耳を傾ける受講者(静岡県母子家庭等就業・自立支援センターの講習会)
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