20080814 日本経済新聞 朝刊
夏の日差しがジリジリと照りつける新潟競馬場。この十日に東京から訪れた五十歳代の会社員は「今の新潟はほとんどのレースで万馬券が出るからね」と予想に熱が入る。百円で購入した馬券に対し払戻金が一万円を超えるのが万馬券だ。
年度売り上げの前年割れが続く日本中央競馬会(JRA)。七月十九日から夏季競馬の振興策として、一着から三着までの着順を当てる「3連単」の発売を、これまでの後半四レースから全レースに拡大した。
3連単は、一―二着を順不同で当てる「馬連」などに比べて的中させるのが難しいが、「少額でも高配当が出るのが魅力」(JRA販売事業室)だ。十日の新潟競馬場でも十二レース中十一レースが万馬券。対象レースで売り上げの約四割を占める3連単を全レースに拡大した後、比較可能な七日分の売り上げは前年同期比〇・五%増えた。
景気、後退局面へ
二〇〇二年以降の拡大局面が過去最長になった景気は、家計に実感を伴った恩恵が乏しいまま、後退に向かう。競馬やパチンコなどはデフレ下で減収傾向をたどり、かつて語られた「不況に強いギャンブル」との経験則は陰るが、3連単人気には少ない出費で大きな望みをかなえたいとの心情が透けて見える。
「一等の当せん金額が六億円の間は『BIG(ビッグ)』を買い続ける」――。こう語るのはコンビニエンスストアの端末でサッカーくじを購入する三十歳代の男性会社員。低迷していたサッカーくじはビッグが加わったことで、〇六年を底にV字回復中だ。
ビッグは当せん者が出なかった場合などに、当せん金が次回以降に繰り越され、最高六億円になる。基本六種類のサッカーくじで、ビッグの売り上げは全体の八割弱。一等の当せん確率は理論的に約四百七十八万分の一だが、今年だけで六億円の当せんが既に二十五口出た。
取引規模10倍に
外国為替証拠金取引(FX)。今年三月に円相場が一ドル=九五円台まで急騰した際には損失を抱える投資家が続出したが、比較的少額で大きなリターンを得ようと一定の人気を保つ。東京都杉並区の五十歳代の会社員は七月半ばまでの二カ月間に、FXで五十万円の利益を得た。ドルやユーロを対象にした取引の規模は証拠金の十倍。相場変動のリスクも高いが、「読みが当たったときは何とも言えない快感」という。
FX大手のセントラル短資オンライントレードが一万二千人強を対象に実施した調査では、FXの魅力について「取引時間の自由度」のほか、「少額から取引可能」といった回答が上位となった。預金の超低金利に満足できす、元本割れリスクを承知で収益拡大を求める動きは少なくない。
内閣府の外郭団体である日本リサーチ総合研究所によると、最新の六月の「生活不安度指数」は前回の二カ月前に比べて六ポイント高い一五七。一九七七年の調査開始以降で二番目に悪い結果となった。
今年の正月三が日の初詣で客は統計の残る七四年以降で最多だった。東京・府中の大国魂神社では七月二十日の「すもも祭り」に例年より一万人以上多い約七万人の参拝者が訪れ、厄よけなどの意味を持つうちわや扇子を買い求めた。
一獲千金の夢や神頼み。経済・社会情勢に閉塞(へいそく)感が強まっている一側面かもしれない。
【図・写真】リスクをいとわず収益を求める動きも(東京金融取引所の外国為替証拠金取引PRコーナー)
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