20080811 日本経済新聞 朝刊

 物価上昇の局面にもかかわらず、厚生労働省は公的年金の受給額を来年度予算の概算要求段階では据え置きを前提とする方針を固めた。過去の物価下落時に年金額を下げなかった特例分を差し引かなければならないうえ、物価の上昇ほど年金額を増やさない「マクロ経済スライド」と呼ぶ調整が働くためだ。ただ、与党内には年金生活者への配慮を求める声もあり、決定までには曲折も予想される。(マクロ経済スライドは3面「きょうのことば」参照)
 公的年金は原則として毎年一月、前年平均の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む)を反映し、四月以降の受給額を決めている。二〇〇八年度の受給額は〇七年平均の消費者物価が横ばいだったため、〇七年度と同じ水準に据え置いた。基礎年金を含む厚生年金の夫婦二人分の標準的な年金額は月二十三万二千五百九十二円だ。
 原油高や穀物高の影響で、六月の消費者物価は前年同月比で二・〇%上昇するなど、今年は一貫して前年同月の水準を上回っている。年金受給者の生活水準を維持するために、本来なら物価の上昇に合わせて年金額も増やすのだが、現状ではそのまま増額に結びつかない仕組みがある。
 一つは過去に据え置いた分の解消だ。政府・与党は二〇〇〇―〇二年度の三年間、物価下落に伴って年金額を減らすべきところを特例で維持した。その物価下落分は累計で一・七%。物価上昇時にはこの分を相殺することが決まっているが、昨年までは物価は上がらず、まだ相殺できていない。
 もう一つが、年金財政の悪化を防ぐために物価の伸びよりも年金額の増額を抑える「マクロ経済スライド」の存在だ。〇四年の年金改革で導入された。
 具体的には、現役世代の減少と平均余命の伸びを勘案してはじいた「一定率」を物価から差し引いた分しか年金額を増やさないという仕組み。この一定率は〇・九%程度で、物価が一%上昇しても年金額の増加率は〇・一%に抑えられる。
 今年の消費者物価が過去の特例分(一・七%)とマクロ経済スライドの一定率(〇・九%)を合わせた二%台半ばを超える上昇にならない限り、来年度の年金額は増えない計算だ。物価が急上昇すれば増額の可能性はあるが、民間の経済研究所では今年の消費者物価の上昇率は二%弱との見方が多い。
 厚労省は財務省と折衝し、八月末に締め切られる来年度予算の概算要求の段階では、年金額の増額を見込まないことにした。しかし与党内では次期衆院選をにらみ、「高齢者への配慮」を求める意見が強まっている。






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