20080810 日本経済新聞 朝刊

 年収五百万円余りの会社員が初詣でに行って、今年の年収はせめて十万円ぐらい増えますようにお祈りしていた。夏休みになって見直してみると、どうやら一万円ちょっとしか増えないと分かった。ウチの社も石油の値上がりで大変なんだと、社長から聞かされた。
 万円を兆円に置き換える。すると、名目国内総生産(GDP)が五百兆円余りの日本国の姿となる。年初の政府見通しでは、二〇〇八年度の名目成長率は二・一%に回復するはずだった。ところが七月に、内閣府は〇・三%への大幅な下方改定を打ち出した。
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 実額にして十一兆円増えるとみていた名目GDPが、わずか一・五兆円しか増えない勘定となる。原油高で日本から資源国へ所得が吸い取られたにしても、見込み違いがはなはだしい。企業や家計の手取りが圧迫され、税収も増えない。日本経済はこんなあい路にさしかかり、景気が後退し出したのである。
 外需依存のもろさが指摘されるが、忘れてならないことがある。〇三年半ばから本格化した景気回復は、好調なグローバル経済があってはじめて実現したという事実だ。
 問題は景気拡大と同様に、景気後退もグローバル化することはないのかという点に尽きる。米国がこけても、ブラジル、ロシア、インド、中国(BRICs)などの新興国が好調なので大丈夫。こんな見方にもだいぶ黄信号がともってきた。頼みの輸出は弱含みになっている。
 お先真っ暗なのか。注目したいのは原油価格反落と、ドルの持ち直しである。皆が原油高を大合唱するさなかに、高値から約二割下落した。年初から最高値まで上昇した分の半分以上が帳消しになった。「原油高は需給逼迫(ひっぱく)の結果」と言ってきた米国が微妙に軌道修正したことが大きい。
 米議会は先物規制立法に動いているし、米商品先物取引委員会(CFTC)も取引情報開示を強化しつつある。実際の需要と関係のない投機取引がけん制され出したのだ。原油とドルは一緒に取引されることが多いので、原油価格が下がるにつれて、ドルにも買い戻しが入り出した。
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 原油高は資源や食料を輸入に頼る加工貿易をお家芸とする東アジア諸国にとって、とりわけ痛手だった。原油価格上昇が一服すれば企業も家計も一息つけるかもしれない。一方、なお残る最大のリスクは米国の住宅不況であり、米欧金融機関の自己資本不足だ。
 政府に求められるのは、この辺の丹念な分析と情報発信だろう。
 景気後退ならば次は景気対策。小泉体制後を象徴するように景気の歳時記が復活した。バブル崩壊後の日本は世界の変化を見誤り、道路やダムを造り続けた。
 国民の安心、安全を唱えるのはよい。だが、所得の再配分を唱えるのと同じく、あるいはそれ以上に必要なのは、配分の基になる成長の見取り図ではないか。
 〇・三%という名目成長率は飛びぬけて低い。米景気の先行きを心配するのがあいさつ代わりとなっているが、国際通貨基金(IMF)の七月時点の予測では、〇八年の米国の名目成長率は三・七%ある。
 同じカネを使うなら、効率と生産性を高めるようにしないといけない。国内にしか目を配らない対策は、社内しか見ない会社経営と同じ。息切れは必至だ。
【図・写真】福田康夫首相から経済対策を指示された与謝野馨経財相(4日)








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