20080803 日本経済新聞 朝刊
人生で大きな資金づくりが必要となるのは「住宅」「老後」そして「教育」だ。賃金の伸び悩みや教育費用の上昇傾向が続き、十分な資金を確保しにくくなる一方で、国の教育ローンが縮小に向かうなど教育資金を取り巻く環境が変化している。教育資金の上手な借り方とため方をまとめた。
「教育資金は住宅や老後に比べて見積もりやすいのに、きちんと計画を立てる人は少ない」。ファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子さんはこう指摘する。子供が生まれれば何年後にどれぐらいの費用がかかるか見当は付くはずなのに、準備をせずに後になって慌てる人が多い。
具体的にどれぐらいの資金が必要なのか、子供一人当たりの教育費用の目安をまとめたのが表A。大学まで公立に通えば、総額一千万―千三百万円。高校まで公立、大学は私立に進んで下宿住まいとなれば、千六百万円近くに達する。
多くのFPが「高校までの教育資金は、なるべく収入の範囲内でやり繰りできるようにすべきだ」(深田晶恵さん)と口をそろえる。公立ならば毎年の教育資金は小学校で三十万円強、中学・高校で五十万円前後。高校までは何とか乗り切ったとしても、大学四年間では四百万―一千万円が必要となる。全額を収入の範囲内で賄うことは難しい。
本来は子供の大学進学資金をためておくのが理想だが、手元資金が不足した場合によく利用されるのが国の教育ローンだ(表B)。融資金利は年二・六五%と、民間を含めた教育ローン全体の中では相当低いうえ、手続きも比較的簡単だ。
国の融資は縮小
しかし、国の教育ローンは縮小傾向にある。行政改革の一環として、教育ローンへの国の関与度合いを少なくすることになったためだ。郵便局などが窓口の郵貯貸し付けについては、利用の前提となる教育積立郵便貯金の新規預け入れが民営化に伴って二〇〇七年九月末で終了。年金教育貸し付けを扱っていた福祉医療機構も、〇八年度からあっせん業務を休止した。
国民生活金融公庫が扱う教育一般貸し付けも〇八年十月から収入制限が厳しくなる。同公庫が十月に日本政策金融公庫に統合・改組されることに伴う措置だ。
具体的にはこれまで子供の人数にかかわらず、世帯の年間収入が九百九十万円(給与所得者の場合、事業所得者は所得七百七十万円)まで融資を受けられたのが、子供が一人か二人の場合は融資対象範囲が縮小される。子供一人ならば七百九十万円(同、同五百九十万円)、子供二人ならば八百九十万円(同、六百八十万円)を超えると、原則融資を受けられなくなる。
国の教育ローンは延べ四百三十万人が利用し、融資残高は一兆円を超える。以前にも〇二年四月に収入制限を厳しくしたことが影響して、〇四年度以降は新規貸付件数が毎年、一割程度減り続けている。今回の収入制限見直しで一―二割程度の人が利用できなくなる見通しだ。収入制限に抵触しそうな世帯は九月末までに申し込んでおけば、来春の入学であっても現行の基準で融資を受けられる。
表Bでは他の教育資金の融資制度についてもまとめている。公的な制度としては雇用・能力開発機構の財形教育融資がある。ただ、財形貯蓄制度を利用していることが借り入れの前提となる。日本学生支援機構の第二種奨学金(利息付き)は学生・生徒に貸与されるが、基本的には入学時にまとまった資金の融資を受けることはできない。
公的な制度は表面上の融資金利は低いが、連帯保証人を付けるか、別途保証料が必要。国の教育ローンの場合、保証料負担を金利換算すると約一%となる。
民間、金利優遇も
民間金融機関も教育ローンに力を入れ始めている。原則的な融資金利は国の教育ローンより高いが、メガバンクでは保証料を別途払う必要がない。さらに、住宅ローン利用者に対しては金利優遇を実施しており、保証料負担も合わせて考えれば、変動金利型の金利水準は国の教育ローンとそれほど変わらなくなる。
ただ、民間ローンは「国の教育ローンほど審査基準が明確にされていないので、融資申し込みの際には時間的な余裕をみておいた方がいい」(深田さん)。
教育ローンは基本的には大学進学時に不足する資金を穴埋めする場合に利用すべきだろう。「中学、高校の時から教育ローンの利用が必要になるのは、資金計画の失敗と言わざるを得ない」(FPの藤川太さん)との指摘が多い。中学から私立校を考える場合には、上積みされる教育資金を賄えるか十分に検討した方がいい。表Aでみると、中学、高校と私立に通えば教育資金は約四百万円増える。
「教育資金で無理をすれば、本来必要な老後資金をためられなくなる」(畠中さん)との見方でFPは一致している。
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