20080731 日本経済新聞 朝刊

 「世界のファンドが日本に来て、最先端の取引を手がけられるようになる政策を詰めています」。六月六日、都内のホテル。会議に集まった国内外の金融関係者に、金融庁政策課長の鷲見周久が予告した。
 その政策を同二十七日、金融相の渡辺喜美が発表する。「PEリスクを排除します。ファンドには大変ウエルカムな話ですね」
不透明税制嫌う
 「PE(Permanent Establishment=恒久的施設)リスク」。これは海外の投資ファンドが国内の運用会社と投資一任契約を結んだ場合、運用益に日本と居住地で二重課税されるリスクのことを指す。課税か非課税かの「線引き」を明示しリスクを回避できるようにすることで、政府は及び腰だった海外マネーの東京誘致を狙う。
 「ファンドマネジャーの国内回帰につながるのだろうか」。七月下旬、法律事務所が開いたファンド課税勉強会。当局幹部の説明に、アルボーン・パートナーズ投資顧問代表取締役の原勝哉は首をかしげた。
 日本の運用会社やヘッジファンドが香港などに運用拠点を移し始めたのは二〇〇二年。税制の不透明さに起因する課税リスクを避ける工夫でもあった。日本を飛び出すことで彼らは税の問題を解決しただけに、「(今回の政策が)日本に戻る理由にはならない」とシンガポールで商品投資顧問を手掛けるスタットアーブ代表の青木俊郎は言う。
 シンガポールには先物やコモディティーなど多様な商品を扱う金融機関がひしめく。ファンド業務に慣れた法律事務所や運用を支援する業者も多い。法人税もけた違いに低く、日本の実効税率が四〇%なのに対し、新設ファンドには一〇%以下にすることもある。日本からの流出は続く。
 一九九六年に橋本内閣が打ち出した日本版ビッグバン。東京をニューヨーク、ロンドン並みの金融市場に育てることを掲げたが、現状は惨たんたるものだ。九〇年代から金融・市場行政に携わってきた金融庁企画課長の大森泰人は「改革は金融機関が中心だった」と自省気味に振り返る。
 金融持ち株会社の解禁などで銀行や証券、保険の垣根は過去十年で低くなった。だが、この間の東京証券取引所に上場する企業の時価総額の伸びは一・六倍と、ニューヨーク証取(二・二五倍)、シンガポール取引所(二・五倍)などと比べて見劣りする。政策の力点が金融機関経営の自由度拡大に置かれ、市場・投資環境の整備・育成が手薄になったことに一因がある。
空回りする改革
 六月下旬、日本証券業協会に新たな会員が加わった。レミアス・ジャパン。米有力投資ファンドの日本拠点で、国内の年金基金から欧米への株式投資資金を募ることを目指す。
 米ファンドの日本進出にも見えるが、実は「一時撤退」だ。〇五年から日本企業への投資機会を探ってきたが、経営陣の抵抗が強く断念。警戒感が薄れるまで資産運用事業で息をつなぐことにした。ファンドアレルギーには制度整備だけで治療できない面もある。
 企業統治や居住空間、入国手続き……。市場活性化につながるのなら、金融庁は所管外でもなりふり構わず手を出すようになった。魅力ある市場づくりをいま進めないと、東京の地盤沈下に歯止めがかからなくなるとの危機感が背景にあるが、改革は残念ながら空回り気味だ。=敬称略







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