20080730 日本経済新聞 朝刊
予算のばらまき、負担先送り、規制強化――。政府・与党で小泉内閣以来の改革路線を見直す動きが相次いでいる。近づく衆院解散・総選挙の足音を意識し、民主党に対する色彩が強い。二〇〇九年度予算の概算要求基準では歳出削減路線をかろうじて守った福田内閣だが、足元にはほころびが広がり始めている。
政府・与党が二十九日決定した追加原油高対策は、漁業者の燃料費増加分の九割を国が補てんする内容。漁業者五人以上がグループで省エネに取り組む条件を付けたため、「単純な補てんではない」(町村信孝官房長官)と力説する。しかし水産業界団体の幹部は「正直言ってここまでやってもらえるとは思ってもみなかった」と驚いた。
■参院選の悪夢
新規の財源は使わず約八十億円の基金を取り崩す方針だ。だが、自民党水産族議員は「早く基金を使い切った方が補正予算を要求しやすくなる」(浜田靖一水産総合調査会長)、「八十億円と書いて『無制限』と読むんだ」(青木幹雄前参院議員会長)などと気炎を上げる。町村官房長官も「明らかに予算が足りないと判明すれば迅速・柔軟に対応する」と補正予算の早期編成に含みを残した。
与党を駆り立てるのは、一年あまり先に迫る衆院議員の任期切れと、次期衆院選に向けた民主党の動きだ。
民主党は六月に所要額一千億円の漁業向け燃油高対策を策定済み。筒井信隆「次の内閣」農相は「八十億円では極めて不十分だ」と述べ、次期衆院選の政権公約(マニフェスト)で、昨年の参院選で掲げた農業向け戸別所得補償制度を漁業や林業、畜産業に拡大する考えを強調した。
こうした民主党の動きは、参院選で「地方切り捨て」批判を浴び、地方の選挙区で惨敗した記憶を呼び起こす。
今春の衆院山口2区補欠選挙で与党が敗北した原因とされる後期高齢者医療制度でも、自民、公明両党は〇九年四月に実施予定だった七十―七十四歳の高齢者医療費の窓口負担引き上げの凍結を決めた。公約だった〇九年度からの基礎年金の国庫負担割合の引き上げも先送りの動きが出ている。
■転換の吉凶は
政府内でもタクシー参入規制強化や日雇いなど短期派遣の原則禁止といった規制強化策が相次ぐ。山崎拓元幹事長は「小泉時代は終わった。単に構造改革を唱えるだけでは日本が持たない」と路線転換を訴えた。
改革路線の修正はかえって衆院選にマイナスになるとの声も少なくない。自民党議員の一人は「改革姿勢を強く打ち出さないと、民主党からは守旧派とレッテルを張られる」と警戒。小泉政権で構造改革をけん引した中川秀直元幹事長も「政策転換を唱えようとする人がいるとすれば残念だ」と自身のホームページで強調する。
「今までのやり方を変えなければならないと、一生懸命やっている最中だ」。首相は二十九日夜、参院選敗北からの一年間を記者団にこう総括したが、党内の若手からは「改革路線への首相のあいまいな姿勢が混乱を招いている」との声も上がっている。
【図・写真】改革路線にほころびが広がり始めた(29日、臨時閣議に臨む福田首相)
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