20080730 日本経済新聞 朝刊
土居丈朗・慶応大経済学部准教授
国民が心配していることに緊急提案という形で応えようとしている点は一定の評価ができる。少子化について施策がしっかり盛り込まれているのもよい。縦割りの排除を目指すのは重要だ。だが一方で、すでに打ち出されている施策ばかりが並んでいる印象を受ける。あえてこの時期に出すなら、長期的な視点で中身の濃い施策を出してほしかった。
施策に必要な金額も個別に明記すべきだったのではないか。プランの柱は五つあるが、「厚生労働省の信頼回復」が最後にきている。まず信頼回復を打ち出す方が、改革のやる気が見えたはずだ。
医療分野は評価
介護など手薄に
上昌広・東京大医科学研究所特任准教授
医療分野では評価できる政策が盛り込まれた。特に救急医療や産科を担う医師に財政支援する仕組みの導入を提唱したのは画期的。医師の養成数増加を打ち出したのも大きな前進といえる。いずれも厚生労働官僚が取り組みに消極的だった内容で、舛添要一厚労相が官僚の抵抗を押し切って進めたのだろう。
ただほかの分野は手薄ではないか。例えば介護の分野はこれまで言われてきた施策ばかり並んでいる。厚労行政の見直しについて言及が少ないのも気になるところだ。厚労省内に懇談会を設置するようだが、厚労官僚に取り込まれてしまうのではないかと心配だ。
国家や社会に対する信頼の源は「安心」にある。我が国の社会保障の現状に対して国民が抱く不安や不満にかんがみると、直ちにこれらの「安心」につながる国民の目線に立ったきめ細かな方策を検討し、この一―二年の間に着実に実行していくことが必要。「この国に生まれてよかった」と思える国づくりを進めるため、緊急に講ずべき対策と工程について検討を行い、五つの安心プランを取りまとめた。
【高齢者が活力を持って安心して暮らせる社会】
(1)高齢者が年齢に関係なく働ける環境整備など
○中小企業における六十五歳までの雇用機会の確保に対する支援
○希望者全員六十五歳以上まで継続雇用する仕組みや柔軟な勤務時間の設定にかかわる支援
○高齢者の雇い入れや試行的雇用をする企業に対する支援
○在職老齢年金制度の見直しを検討
○基礎年金の最低保障機能強化のあり方について検討
(2)医療・介護・福祉サービスの充実や地域づくり
○切れ目のない療養を支援するためのネットワークの構築
○認知症の医療と生活の質を高めるための総合的な取り組みを行うプロジェクトの推進
○低所得の高齢者が入居可能な賃貸住宅の供給を促進
○介護療養型老人保健施設の経営や入所者の実態について調査を行い、必要に応じて介護報酬を見直すなど必要な支援策の検討
(3)その他
○継続審議中の被用者年金一元化法案の早期成立
○後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直しで保険料の軽減策などの着実な実施
【健康に心配があれば、誰もが医療を受けられる社会】
(1)救急医療、産科・小児科医療の確保など
○夜間、休日の救急医療を担う医師の手当てなど財政的支援の創設
○救急患者の受け入れの多い医療機関に対する支援の創設
○小児初期救急センターや救急医療支援センターの運営に対する支援の創設
○三次救急医療を担う救命救急センター、ドクターヘリ配備に対する支援の拡充
○救急医療機関への患者受け入れコーディネーターの配置
○軽症患者による夜間の救急外来利用の適正化
○地域でお産を支える産科医の手当てなどへの財政的支援の創設
(2)医師不足に対して講ずべき対策
○へき地に派遣される医師の手当てなどへの財政的支援の創設
○医師養成数の過去最大程度までの増員についての具体的な方策の検討
(3)勤務医の過重労働を緩和する方策
○短時間正規雇用や交代勤務制、変則勤務制を導入する病院に対する支援
○女性医師の乳幼児の保育に関する支援
(4)必要な環境整備
○医療安全調査委員会設置法案(仮称)の国会提出
○地域医療の確保のために必要な診療報酬の見直しの検討
(5)安全対策と研究開発の推進
○難病に対する研究の推進
【未来を担う「子どもたち」を守り育てる社会】
(1)子育てを支える社会的基盤の整備
○「こども交付金」を創設し、幼稚園・保育所の枠組みを超えた総合的な財政支援を検討
○認定こども園の制度改革に向けた検討
○待機児童が多い首都圏、近畿圏、沖縄を中心とした重点支援
○自治体の積極的取り組みによる認可保育所の緊急整備を促進するための支援
○分園の緊急整備のための支援
○認可保育所の設置を促進するための沖縄の特別対策
○保育所の開所時間の延長促進
○幼稚園、保育所における兄弟姉妹のいる家庭の保育料軽減措置の一層の拡大検討
(2)仕事と生活の調和の実現=略
【派遣やパートなどで働く者が将来に希望を持てる社会】
(1)非正規労働者の雇用の安定、社会保険の適用拡大など
○年長フリーター、三十代後半の不安定就労者を重点に、トライアル雇用制度の活用による就職促進
○年長フリーターの職業意欲の喚起、中小企業とのマッチングの促進
○正社員化に取り組む事業主への支援、短時間正社員制度の導入支援
○住居喪失不安定就労者に対する総合的な支援の実施
(2)非正規労働者の能力開発支援策の充実
○職業訓練期間中の生活保障のための給付をすることができる制度の創設、参加協力企業への支援の拡充
(3)労働者派遣法制の見直し
○日雇い派遣の規制など派遣労働者の待遇改善のための労働者派遣法制の見直しを検討、臨時国会への法案提出を目指す
○偽装請負、違法派遣の一掃のための指導監督の徹底
【厚生労働行政に対する信頼の回復】
○有識者、大臣などからなる厚生労働行政在り方懇談会(仮称)を立ち上げ、改善策を議論
○懇談会の議論は業務改善などに反映させ、一刻も早い信頼回復への具体化につなげる
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