20080730 日本経済新聞 朝刊
足元がぐらつく社会保障をどう立て直すか――。政府は二十九日まとめた「五つの安心プラン」で、社会保障分野で緊急に取り組む施策を百五十以上も列挙した。だが必要な財源規模は明らかでなく、例年は八月末にまとめる来年度予算の概算要求項目を前倒しして並べた印象がぬぐえない。実現に疑問符が付く施策もあり、安心確保への道筋はなお視界不良だ。
「財務省ときちんと折衝し、必要な予算を確保したい」。舛添要一厚生労働相は二十九日の閣議後の記者会見で、こう強調した。年金記録問題や後期高齢者医療制度の不手際などで高まる国民の不安。それをぬぐうために、福田康夫首相が六月下旬に策定を指示したのが安心プランだった。
「小粒」の結果も
高齢者対応、医療体制強化、子育て支援、雇用対策、厚労行政の信頼回復――。五分野で項目を並べ、今後一―二年の工程表も示した。特に医師不足対策を重視。産科、救急、へき地医療を担う医師への手当への財政支援を目玉に据えた。
政府は来年度予算でも社会保障費の自然増を二千二百億円抑制するため、対策の多くは抑制対象外の「重点枠」で対応する。ただ、約三千億円の重点枠はすべて社会保障に振り向けられるわけではない。プランの大部分が来年度予算の概算要求項目なだけに、予算編成が終わってみたら、総花的に「小粒」の施策が並ぶ結果も予想される。
従来の政策の延長も目立つ。例えば子育て支援。保育所と幼稚園の機能を合わせた「認定こども園」の整備のため交付金創設を打ち出したが、大半は「新待機児童ゼロ作戦」など既存の施策の延長が占めている。
予算のやり繰りだけでは、実現が難しいものもある。プランでは公的年金制度見直しにも言及、現行の社会保険方式のもとで基礎年金に「最低保障」を設け、高齢単身女性ら年金額が低い人に税財源で給付を加算することも検討課題に挙げた。ただ、月五万円程度の保障で、一兆円規模の追加財源が要る。
与党は次期衆院選をにらみ、増税論議には消極的。来年度に基礎年金の国庫負担割合を二分の一に上げる財源のメドもつかず、さらに追加の財源は見当たらない。会社で働く高齢者の年金を賃金に応じて減らす在職老齢年金の見直しも、全体の給付増となるため、実現は簡単ではない。
方向性明示せず
政府は社会保障国民会議で財源論も含めた制度の全体像を描きたい考えだが、緊急性が高いとうたうプランは財源の裏打ちが乏しく迫力を欠く。
行政の立て直しへの道筋も不透明だ。奥田碩トヨタ自動車取締役相談役を座長とする有識者懇談会が八月一日から議論に入るが、組織や業務の見直しの方向性や実施時期は示していない。
「安心」の名の下に新たなリスクもひそむ。雇用対策では、これまで規制緩和を進めてきた労働者派遣制度について、規制強化へカジを切った。過度の規制は雇用市場の柔軟性を奪い、経済の活力をそぐ恐れをはらむ。
【図・写真】臨時閣議のため首相官邸に入る舛添厚労相(29日)
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