20080729 日本経済新聞 夕刊
資源高を背景に値上げが相次ぎ、インフレの足音が聞こえてきそうな雲行きです。フィナンシャルプランナーの深野康彦氏にインフレ到来に備える資産運用について教えてもらいます。
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政府のデフレ脱却宣言はまだですが、生活実感からすると既にインフレ経済に転換したと考えてよさそうです。原油、小麦などの一次産品価格が高騰しているためです。
二〇〇八年版通商白書は、実需以外の年金基金や産油国の投機資金の流入が、価格を三―四割程度押し上げていると試算しています。それも事実ですが、一次産品の需給関係が大きく変わっていることも無視できません。世界の人口は毎年約八千万人も増えています。中国やインドなどの新興国では、経済成長に伴い人々の所得が増え、これから車などが本格的に普及するのです。
一次産品の国内需要は、今後も減少していくことが予想されますが、世界全体の需要は増加するという、正反対の動きとなっているのです。さらに、第一次産業に従事する人が減っていることから、農産物などの供給量が短期的に急増することも考えにくいのです。
しかも企業側は原材料費の上昇を、一〇〇%消費者に転嫁してはいません。六月の企業物価の上昇率は、速報値ベースで前年同月比五・六%ですが、消費者物価指数は一・九%というように、一年前と比較すると乖離(かいり)幅は広がっているのです。
一方、給与所得者の収入はほとんど増えていません。今春の労使交渉での賃上げ率(日本経済新聞本社集計)は一・八三%、夏のボーナスも平均支給額は前年比〇・三%減となっています。
リタイア世代の公的年金も、〇四年度の年金制度の改正で、物価スライドからマクロ経済スライドに変更され、消費者物価の上昇率と同じ割合では受給額が増えなくなってしまったのです。
一九九〇年代後半以降の不況局面は、モノの価格が下落して貨幣価値が上昇するというデフレ経済下にあったため、家計を節約することで、乗り切ることができました。節約といえば、水道光熱費や食費を真っ先に削るのが一般的です。今回は、節約してほっとしたのもつかの間、数カ月遅れでこうした必需品の価格が上昇するというイタチごっこを繰り返してしまうのです。
バブル経済崩壊後に社会に出た人にとっては初めて経験する物価上昇です。全世代を見渡しても、今までの経験だけでは乗り切れない二十一世紀型の新種のインフレが起きているかもしれないのです。
《ふかの・やすひこ》62年生まれ。有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。業界歴二十年目のベテランフィナンシャルプランナー。金融資産運用設計を得意とする。
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