20080721 日本経済新聞 朝刊

 「住宅の次に高価な買い物」といわれる生命保険。結婚や出産などの節目で加入を考える人が多く、保険会社の外務員も「おすすめプラン」を熱心に持ち掛ける。だが「なんとなく必要そう」と入った保険が後に家計の重しになることもある。必要な保障を自ら見極め、賢く保険をかけることが大切だ。
 東京都の製薬会社に勤める高井好広さん(30、仮名)は一月、第一子の誕生を機に、生命保険を見直した。外資系生保の営業マンが勧めるのに合わせ、月額数十万円の保障が一定期間続く「収入保障保険」に入った。
 高井さんが万一の時に家族が受け取る保険金の総額は一億円を超える。結婚時に入った終身保険と合計した保険料は月約四万円。高井さんは「子供に手がかかるうちは手厚い保障が必要だ」と割り切るが「本当に必要な保障額はどのくらいか、素人には分かりにくい」と本音を漏らす。
 NTTデータ経営研究所が今年実施した意識調査によると、結婚時に五二%、出産時に五八%の人が新たに何らかの保険に加入した経験がある。働き盛りの自分に不慮の事態が訪れても、家族の生活を保障したいという思いが保険加入の自然な動機となっている。
 ただ、契約内容に強くこだわる人は意外にも多くない。ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんは「貯蓄や遺族年金など現状で自分に備わる保障を考慮に入れず、高額の保険に加入している人がほとんど」と話す。
 死亡時の保障では、例えば国民年金の加入者なら、妻と子供一人のケースで月額約八万五千円が子供が十八歳になるまで家族に支給される。遺族厚生年金や会社からもらう死亡退職金などの保障も認知度が低い。入院したら日額で五千―一万円が支給される医療保険は、自分で貯蓄しても対応できるケースが多い。
 生命保険に加入する前は、自分に万一の事態が訪れたと想定して、家計の収支を試算してみるとよい。生命保険の「必要保障額」の試算は複雑と思われがちだが、ポイントを知っておけば自分でもできる。
 まず支出。生活費は人によって異なるが、現在の五〇―七〇%程度と仮定。子供の自立後、配偶者だけの生活費なら現在の三〇―五〇%として計算する。教育費は公立と私立の違いはあるが、子供一人一千万円と想定。奨学金の利用も考慮しておこう。
 次に住居費負担。住宅ローンを借りている場合、借り手本人の死亡時は団体信用生命保険の保険金で残債を補うため、住居費は見込まずに済む。賃貸の場合も配偶者の実家での生活が可能なら支出は小さくなる。このほか葬儀代がおよそ三百万円と仮定すれば、必要な支出額の大枠は決まる。心配なら住居の修繕費や子供の結婚費用を加えてもよい。
 一方、収入面では、先に挙げた公的保障を洗い出し、預貯金や有価証券などの資産も加算してみよう。配偶者が正社員として収入を得る道があれば、必要保障額はかなり減らすこともできるので、保険の加入前に夫婦でよく相談しておこう。
 収支の差が必要保障額だ。保険会社も計算してくれるが、自分で計算すれば、より必要額が小さく、保険料も安くなる場合がある。損保ジャパンDIY生命保険やSBIアクサ生命保険のウェブサイトには、必要事項を記入して必要額を割り出すコーナーもある。
 保障額の試算ができたら商品選び。インターネットでの資料請求にしても対面セールスを受けるにしても、基本は「分からなければ加入しない」(内藤さん)。国内生保の場合、生命保険に医療や介護の「特約」がついたセット商品を勧められる場合が多い。入院の際など役に立つこともあるが、特約には追加的な保険料を支払うことになる。さらに特約がたくさんついた保険は複雑になりがちだ。
 加入後に後悔しないよう、なるべく特約を避けてシンプルな保険に加入しておく方がよい。子供の卒業や住宅購入などの機会に保険の契約内容を見直すことも重要だ。
 採寸もそこそこに、売り手の勧めだけに従ってオーダーメードの洋服を買う人はいないだろう。生命保険も人生設計に合わて組む究極のオーダーメード商品。冷静で懸命な見極めをしたい。(高橋元気)
 次回は「聞いてみました 隣の家計」を掲載します。