20080715 日本経済新聞 朝刊

社会保障費抑制シナリオ
 財務省は二〇〇九年度予算の大枠を決める概算要求基準で社会保障費の自然増を引き続き二千二百億円削減する方針を固めた。柱と見込むのが雇用保険の国庫負担約千六百億円の全廃だ。だが連合は「国の責任放棄だ」と猛反発し、保険料の半分を負担する経営側も難色を示す。失業率は足元で悪化しており、財務省のシナリオ通りいくかは不透明だ。
膨らむ「埋蔵金」
 「雇用への国の責任を示す国庫負担の廃止はあり得ない」。連合の古賀伸明事務局長は六月、厚生労働省が労使の代表を集めて開いた会議で語気を強めた。すぐに日本経団連の鈴木正人参与も「全く同感。国の関与は必要」と応じた。普段は対立する労使だが、この問題では一致して財務省に対抗する。
 雇用保険の失業給付の財源は労使が負担する雇用保険料が中心で、一定割合を国が補助する。〇八年度予算では保険料収入約二兆円に対し、国庫負担は千六百億円だ。
 政府は「骨太の方針二〇〇六」で社会保障費の自然増について、五年間に計一兆一千億円抑制する方針を定めた。年二千二百億円ずつ削る計算だが、厚労省や与党内から「これ以上の抑制は限界」との声が強まっている。そこで財務省が目を付けたのが、雇用保険の「埋蔵金」だった。
 雇用保険は景気回復で〇七年度までに積立金が五兆円近くまで積み上がった。一方、失業給付は年一兆七千億円。財務省が「国庫負担は必要ない」とする論拠だ。
積立金が急減も
 雇用保険の国庫負担の削減は二年前に実施したばかり。今回国庫負担の廃止に踏み込めば、雇用保険を国が運営する根拠は薄れる。財務省は財政効果を主張するだけで、厚労省も「国の責任」でどんな制度の将来像を描くのか不透明だ。陰り始めた景気も影響する。雇用情勢が悪かった〇二年には積立金は四千億円まで減った。失業率はここ半年は上昇傾向。給付が増えれば積立金が急減する可能性もある。
 〇八年度予算で政府管掌健康保険の国庫負担を大企業の健康保険組合などに肩代わりさせる案も、ねじれ国会で審議に入れず、結局は宙に浮いたままだ。数字のつじつま合わせの議論に終われば、結局は財政再建と社会保障制度改革の双方が先送りになりかねない。

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